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I Save The World Today

■クリスマスを控えたある日のことだった。

所用でH市にある物流センターへ向かうためにバスを待っていたら、浅黒い肌の背は若者たちの三人組に呼び止められた。

「このバスは◯山2丁目に止まりますか?」

おそらくは南米系の企業研修生だろう。

バスのルートを頭の中で思い返しながら、確かあのあたりを通るよな、と思って「止まりますよ。」と返事してバスに乗った。

彼らもあとをついてバスに乗り込んだ。

10分ほど乗って「確かこのあたり」という地点に差し掛かったのだけど、そのバス停は「◯山1丁目」で・・・どうやら「◯山2丁目」に止まるというのは思い違いだったようなのだ。

む、あれれ、ひょっとして勘違いだったのか。まずいな。止まらないのか、2丁目。

焦って運転手に「このバスは◯山2丁目に止まりますか?」と尋ねたら、運転手はこともなげに「止まりません。」と言う。

次のバス停のある交差点でこのバスは右折する、その交差点を左折してひとつ目のバス停が「◯山2丁目」なんだそうだ。

「すいません。止まらないって。ドント・ストップ。次で降りましょう。」

彼ら三人組と一緒に僕はバスを降りた。

「あっちが2丁目だそうです。バス停ひとつ歩くことになるけど。」

「あ、わかります。向こう、私の会社、ありました。日本人、親切です。アリガトございます。」

いいかげんな返事を詫びて彼らを見送る。

バスで知らないところへ連れて行かれるのは誰だって不安なもの。聞かれたときちゃんと調べて返事すべきだったと反省しつつ、修正できてほっとした。日本人に道を聞いても正しく教えないという印象を彼らが持つか持たないかは、彼らのこの国での過ごし方に大きな影響を与えるだろう。ひとまずそういうことは回避できた、と僕はなんとなく世界を救ったような気分になった。

■流通系の業務をしていると、いろんなことが日々起きる。

ある商品が、業者の手違いでまだ物流センターに入荷していないという情報が入った。今から入荷しても仕分け作業のラインが動く時間に間に合わないので作業者のヘルプがほしいとのこと。自分は会議の予定があり、事務所から4名の応援者に物流センターへ向かってもらうことになった。

夜、7時を過ぎて彼らから連絡が入り、結局仕分けに間に合わなかった数センター分についてはこれから後追いでセンターへ向かって荷物を引っ張り出して詰めなおすことになったという。

そんな情報を聞いて帰れるわけもなく、僕もあるセンターへ向かって彼らと合流し、一緒に作業をした。

100品近い商品をひとつひとつ箱を引っ張り出しては中身を確認しては詰めなおす。配達員や利用者は、実はそういうことが起きていたということはまったく知る由もなく商品を受け取ることができるだろう。

10時を過ぎてすべての作業を終えて、またこれで世界の平和が保たれたと思った。

■大晦日にはおせちセットの配達がある。1セット1万円〜数万円するおせちが1万セット以上もいろんなメーカーから入荷する。

基本的にこれらはすべて要冷蔵だが、例年12月31日に気温が10℃を上回ることはなく、各センターへの入荷後には保冷管理をする必要はなかった。

ところが、どうやら今年の大晦日は気温が高いという。天気予報を調べてみるとなんと最高気温15℃となっているではないか。

まずい。これはさすがにまずい。先日も高島屋の溶けたケーキが大騒ぎになったばかりではないか。

温度管理が徹底されないまま配達された結果、お正月から食中毒なんかが発生したら大事だ。

億単位の損失が出るという事業的な側面はもちろんだけど、それ以上にこれまで積み上げてきた信頼が根こそぎ失われてしまう。そして何より、お正月という家族や親戚が集まるハレの日を台無しにしてしまう。「こんな傷んだおせち、なんでこんなもん買うたんや!」と旦那さんが奥さんを叱責するシーンが浮かぶ。

なんとしてもそういう事態は避けなければいけない。

上司に相談したら、そりゃそうだってことになって翌日には関連部署が集まっての対策会議が行われ、配送センターでの品温管理手順が示され、必要なツールが確保され、無事隅々まで要冷蔵チェーンが繋がれることになった。

当日、配送担当者へは負荷を増やすことにはなってしまったけれど、これは顧客本位で考えたときに当然の、当たり前中の当たり前の対応だ。

その当たり前のことを当たり前として動ける組織で働けていることに感謝したいと思った。

当たり前のことを当たり前にすることで、世界の平和は繋がれ、維持されていくのだろう。

今年は、日本人のモラルがここまで地に落ちたのかと思うような不祥事が相次いだ年でした。

ビッグMーターの事件は言うに及ばず、Dイハツ、故ジャニー氏の芸能事務所にT塚歌劇団、N大アメフト部の薬物事件も組織のガバナンスが問われる問題だった。

昨年も知床遊覧船の遭難や、園児をバスに置き去りにして死なせた幼稚園や、Y野家の重役の不適切発言とかいろいろあったから、今年もというべきなんだろうけど。

どうやら世間では、当たり前のことを当たり前やることができない組織というものがあるらしい。

上から目線でどうなってるんだって吠えたところで始まらないのだけれど、あまりにも顧客に対するイマジネーションが不足しているのではないか、と思ってしまう。

政権与党最大派閥の政治家たちがせっせと裏金づくりに精を出していたことも、自分は誰に何を託されているのかが理解できていないという点で顧客が見えていないわけで。

そういう人たちの組織にとって顧客っていうのはエサなんだろうね。自分が生き残るために食ってしまうもの。弱肉強食の弱の側が顧客。でも、顧客の満足と信頼が得られない限り事業は長続きしない。エサを食いつくしたらもう食べるものはなくなってしまう。

蝶を集めるためには、蝶を追いかけまくって取り尽くしてしまうのではなく花を育てることが大切。美しい花畑なら自然に蝶は集まってくる。

顧客の満足を考えず信頼を失った結果、組織が崩壊してしまった事例なんてこれまでだっていくつもあるのにどうして教訓にしないのだろう。

結局のところは創業者なり事業のトップなりの考え方なんだろうけど。一人一人は善人でも集団になったときには長い物に巻かれてしまいというのはありがちなこと。

組織としての風土なり文化なりをどう作っていくか。

けど、そういうものとて本当は一人一人の行いが作っているんだろうけどね。

一人一人の行いが実は社会を作り、社会を支えている、ということに社会はあまりにも無自覚だ。

ほんの少しの行動が、実は世界を救っている。

そういうことにもっと自覚的であるべきだと思う。

ロシアでもウクライナでもパレスチナでもイスラエルでも、そういうイマジネーションがあれば、あんなふうにいがみ合うことはないのではないか。民主党と共和党も、白人と黒人も、そしてもちろんわが国の隣国に対する諸々もそうだろう。

キレイゴトだろうか。

そうかもしれない。

そうかもしれないけれど、キレイゴトのようにキレイだということはやはり善いことなのではないか。

僕は決して善人ではない。人並みに欲望もあるし機嫌はすぐに顔に出るし、マナーや作法はがさつで、これ見よがしのお気遣いなんてまずすることはない。どちらかというとそういうのは積極的に好きじゃない。

それでも、当たり前の責任を当たり前に果たしたときに、喜びを感じることはできる。

誰もが善いことを望んでいるのなら、誰もが善いことをすればいいのではないんだろうか。

青臭い理論かもしれないけれど、間違いではないだろう。


今日、私は世界を救った

今はみんなが幸せで

悪いことはなくなった

今はみんなが幸せで

良いことがここに留まっている

どうかそのままであってほしい

どうかそのままで

 

ユーリズミックスの「Peace」というアルバムに収められた“I Saved The World Today”という曲。

キレイゴトのような歌詞をキレイに歌われると僕のような天邪鬼は素直に受けとめられないのだけれど、アニー・レノックスのとても憂鬱な歌い方でこう歌われると気持ちがザワザワしてしまう。

世界が幸福ではないからこその、ささやかな幸福への軋むような願いが刺さる。

ほんの少しの行動が、実は世界を救っている。

そういうことにもっと自覚的であるべきだと思った2023年の暮れのことを、ずっとちゃんと覚えておきたいと思ったのだった。

今年も一年間お世話になりました。

2023年も残りあと少し。

まずは無事新しい年を迎えたいものですね。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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