fc2ブログ

Entries

The Lion/Youssou N'dour

セネガルの首都・ダカールの沖合にはゴレ島という世界遺産がある。
16世紀から18世紀にかけて、西アフリカの各地で取り引きされた奴隷は、一旦この島に集められたあと、アメリカへ送られたのだそうだ。
ヨーロッパからの移民の多くが、受け入れ窓口だったニューヨークのエリス島を通ってアメリカに入ったのとは逆に、多くの黒人たちはこの島を通ってアメリカに入った。ある意味、アメリカや西欧世界にとっての負の遺産と言える島だ。

そんなセネガルが誇るスーパースターがユッスー・ンドゥール。
古くは中世のマリ王国の王家に仕えたグリオと呼ばれる音楽家の家系に育ったユッスーは、西欧からの影響を消化し、西アフリカの民族音楽と融合させたアフロ・ポップを作りあげた。



ユッスー・ンドゥールの存在を初めて知ったのは当然のことながら、ピーター・ガブリエルとコラボした“Shakin' The Tree”だった。
ゲイブリエルとのコラボのあとにリリースされた作品がこの『The Lion』。
もっとアフリカっぽい音を想像していたらものすごくモダンな音でびっくりした、というのもこの時期に多くの人が感じた印象ときっと同じだろう。



ユッスー・ンドゥールの音楽の特徴はやはりポリリズムだ。
西アフリカの伝統的な打楽器サバールやタマをウォール・オブ・サウンドのように配し、ギターやベースやキーボードが複雑なリズムで重なり合うことから生まれる奥行きのあるリズムの快感は、ちょっと言葉では言い表しにくいけど、リズムの渦に巻き込まれていくような感覚という感じだろうか。
そして更に強烈なのが、張りがあってしなやかなユッスーのヴォーカルだ。けっこうなハイノートをシャウトやファルセットではなく伸びきるように歌う声量、時折混ざるイスラーム的な節回し。
永らく聴いてきたロックとは違う心地よさは、最初とっつきにくくてもハマるとクセになる。



ユッスー・ンドゥールの音楽はセネガルではンバラと呼ばれているそうだ。
キューバのソンやルンバ、サルサなどのパーカッションを多用したリズムを西アフリカ伝統のものに置き換え、R&Bやジャズの要素をブレンドしたようなサウンドは、決してアフリカだけで純粋培養されたアフリカ民族音楽の延長ではなく、ワールドワイドなポップ・ミュージック。
黒人たちが作ってきた音楽のいろんな要素がブレンドされたスタイルは、ソウル/R&Bのひとつの進化形がと思う。何よりスタイルだけではなく、黒人たちが強いられた苦難の歴史から来るスピリットを共有していると感じられるのだ。



“Shaking The Tree”は抑圧された女性たちの解放を呼びかける歌だ。
アフリカという搾取され続けた土地、黒人という搾取され続けた立場からの、同じように搾取され続けた女性たちへの連帯表明。

Turning the tide
you are now on the incoming wave
Turning the tide
you know you are nobody's slave

SOUMA YERGON,
SOU NOU YERGON,
WE ARE SHAKIN' THE TREE

ぶっ潰せとか戦い抜けといった威勢のいい言葉ではなく「木を揺らそう」という呼びかけは、抑圧された者たちが力を合わせて粘り強く社会を変革させようというメッセージ。
武力ではなく民主主義的に社会を変えていこうというイメージを想起させる。
それは西欧中心の社会システムに否応なく巻き込まれた端っこの場所から観るからこそ浮かんでくる発想のような気がする。





スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://goldenblue67.blog106.fc2.com/tb.php/1948-6c9b9756

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

Profile

golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

Calendar

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -

Gallery

Monthly Archives