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Storong Persuader/The Robert Cray Band



1986年、突如大ヒットしたロバート・クレイのアルバム『Storong Persuader』。
“Smoking Gun”なんてMTVでもしょっちゅう流れていた記憶がある。



マイルドなトーン、ジェントルな語り口。ホーンやキーボードも入ったR&B寄りのサウンドは、同世代のスティーヴィー・レイ・ヴォーンのような派手さもなく、だからといって渋好みの泣かせるプレイをするわけでもない。テクニックは確かに素晴らしいのだろうけど、すごいテクニックのギタリストなんてごまんといる。華麗でもない、素朴でもない、オルタナティヴでもなけりゃポップでもない、ただ、リズムがしっかりした彼らの演奏に身を任せているのは、とても心地よい。



まるで、ちょうどいい湯加減のお風呂にのんびり浸かっているような、そんな心地よさにあふれたブルースだ。

そう書いて、なんだか妙な気分になった。
ブルースがちょうどいい湯加減、っていうのはなんだか妙な気がする。

ブルースこそは、遠く西アフリカから奴隷として連れ去られ、死ぬまでこき使われ、悲しみに暮れながら一生を終えざるを得なかった黒人たちの、そしてその子孫たちの嘆きと祈りがDNAに仕込まれた音楽。生きていると避けようもなく巻き込まれてしまう怒りや悲しみ、嘆き、どうしようもない欲望とどうしようもない現実のギャップ、そしてその憂さを晴らすために酒に浸り女に溺れギャンブルで身を崩し一夜のバカ騒ぎを繰り返すそんなどうしようもない人間たちの喜怒哀楽が詰まった音楽。そこにあるのは、報われようもない大きな欠落感。
僕が聴いてきたブルースっていうのはそういう種類の音楽で、鼻歌で口ずさむ、とかそんな“ながら”で聴けるような音楽じゃない。
ロバート・ジョンソンにしろ、マディ・ウォーターズにしろ、エルモア・ジェイムスにしろ、バディ・ガイにしろ、ちゃんと向き合って、彼らの歌の衝撃にガツーンと打ちのめされるのが僕にとっての正しい聴き方だと思っていた。心の底にある黒い塊に気づいたときにそれに目を背けるのではなく、それをもっとちゃんと見ることで克服するための処方箋、みたいな。

本来そういう音楽であるはずのブルースを、ロバート・クレイは伸び伸びと心地よさげに、誇らしく演奏する。
彼の音楽は、スピリットを置き去りにした伝統芸能の形式の継承に過ぎないのか?
ある意味そうなのかも知れない。
ハウリン・ウルフは晩年まで決して白人の聴衆の前ではプレイしなかったという。そういう意味でのブルースのスピリットは失われた。まぁ僕のような東洋人がブルースをご機嫌で聴いている時点で、ブルースのスピリットなんてものが生きているかどうかは怪しいのではあるけれど。

ロバート・クレイがプレイするのは、R&Bやソウル、ロックと出会ってよりマイルドに消化された音楽。ブルースとは似て非なる音楽、A.O.R=Adult Oriented Rockという表現を借りるならば、Adult Oriented Bluesとでもいうべき、熟成されて角がとれてまろやかになったブルースだ。



だけどブルースの本質は失われてしまったわけではない。
心の底にある黒い塊のことをちゃんとわかりつつ、そいつと上手につきあっていくための音楽としての、大人のためのブルース。

ちょうどいい湯加減のお風呂にのんびりと浸かることが、明日も元気に暮らせる活力になるのならば、四の五の言わずにその幸せに浸ればいい。
タフでハードな時代でちゃんと大人でいるためには、そんなささやかな楽しみこそが処方箋だったりするのだ。








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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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