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Everything Is Everything/Donny Hathaway

1970年リリース、ダニー・ハサウェイの『Everything Is Everything 』。
日本盤タイトルは『新しきソウルの光と道』で、その名の通り、ソウルの新しい道を切り拓いた作品とされている。



ダニー・ハサウェイはシカゴ生まれで、幼い頃から教会の聖歌隊で歌い、4才の頃には既にウクレレで歌伴を行っていたらしい。
青年期にはハワード大学に進学しクラシックを学び、卒業後はカーティス・メイフィールドらの下でミュージシャンとして、また編曲家やプロデューサーとしてキャリアを積んだ。
大学で音楽の専門教育を受ける、というのは一時代前の黒人社会では考えられないことで、その出自そのものが時代の変化による新しいスタイルの出現を思わせる。



ダニーの音楽はゴスペルやブルースの伝統をベースに持ちつつ、ジャズの即興的グルーヴやクラシック的な構成や編曲を融合させたような洗練されたスマートさが持ち味なんだけど、それが取ってつけたような頭でっかちのものではないのがカッコいいと思う。
理屈や理論をこじつけて新しい音楽を創造したのではなく、自分の中から自然に立ち上がる音楽をその思いのままに演奏した感じがする。
黒人として幼い頃から身についたゴスペル的なフィーリングをしっかりとルーツに持ちつつ、音楽的理論や技術をそのことを豊かに表現するためのツールとして活用する。
例えばレイ・チャールズのカヴァー“I Believe To My Soul”なんてまさにそんな感じで、古いゴスペルやリズム&ブルースのトラディションをしっかりと踏まえた上で、新しい発想で新しい時代の黒人としての誇りを歌い演奏しているように聴こえる。



ダニー・ハサウェイやカーティス・メイフィールド、あるいはマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーらの、従来のソウル・ミュージックのスタイルからの進化した音楽は総じてニュー・ソウルと呼ばれた。

新しいソウル。
では、ニュー・ソウルのどこが新しかったのか。
もちろん、パーカッションなどを取り入れたアフリカ的ポリリズムを持ったリズムや、ベースがうねった重厚でヘヴィーなサウンドや、ブルースのルーツを持ちつつオーケストレーションを拡大したサウンドは今までのポップ・ミュージックにはない新しさがあった。エレクトリック・ピアノのトーンや女声コーラスの美しさも洗練され都会的だった。
でも本当に新しかったのは、黒人ミュージシャンが自己表現による創作をし始めたということだろう。
黒人たちの音楽は、ロバート・ジョンソンなどによる個としての強い表現形態はあったものの、総じては長きに亘ってエンターテイメントであり、演芸としての扱いだった。
それを一旦受け止める中で、レイ・チャールズやジェームス・ブラウンやチャック・ベリー、あるいはチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーらが一流のエンターテイメントとしてR&Bやジャズを磨き上げてきた。そういう歴史を踏まえた上で、黒人たちが普通の言葉で普通に自分が感じた世界を表現し始めたのがニュー・ソウルなのだと思う。
黒人たちのパワーがいよいよそこまで熟し、期を得たということなのだろう。
そして、先人から受け継いだ伝統や意思を一度形としてまとめあげたのがダニー・ハサウェイの音楽なのだという気がする。1950年代以降のブラック・ミュージックの大きな高みというか、いわゆるひとつの大きな到達点的なものが彼の音楽にある。



この洗練はその後、ブラック・コンテンポラリーやクロスオーバーなど、より洗練へ向かうブラック・ミュージックのメインストリームを生み出した一方で、逆により先鋭化しファンクやラップへと向かうもの、もしくはシリアスな状況の裏返し的に享楽的なディスコ・ミュージックへ向かうもの、サザン・ソウルなど伝統芸能的に旧来のスタイルを維持するものなどの分岐のきっかけとなった。
そういう意味では、70年代前半のニュー・ソウルというムーヴメントは、精神と肉体が一致していた奇跡的な時期であり、大きな集大成だったのだな、と黒人音楽の歴史を俯瞰していく中でそんな思いを強く持った。












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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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