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That's The Way Love Is/Marvin Gaye

マーヴィン・ゲイといえばとにもかくにも『What's Goin' On』が名盤として挙げられる。
もちろん『What's Goin' On』はブラック・ミュージック史のみならずポップ・ミュージック史に燦然と輝いく名盤ではあるのだけれど、天の邪鬼な僕としては敢えてそのひとつ前の作品『That's The Way Love Is』を取り上げてみたい。



このアルバムのリリースは1970年。
50年代末から高まった黒人の権利を求める公民権運動は、1964年に公民権法が制定されたことでひとつの大きな成果を得たものの、実際のところ多くの黒人たちの暮らしはその後もそう変わるものではなかった。
やがて一部の黒人たちは先鋭化・過激化し暴力的な革命を目指すようになる。
一方でアメリカはベトナム戦争に介入。戦争は泥沼化して長期にわたるものとなり、アメリカ社会にはヒリヒリした重い空気が漂うようになっていった。

そういう時代背景の中で、音楽も変わっていく。
60年代前半に明るく楽しく豊かな希望を歌ったモータウンの音楽も、サイケデリックロックやハードロックの出現に呼応するように重厚なテーマや重く太いリズムを持つようになっていったのだ。
このモータウンの変質を担ったのが、このアルバムのプロデューサーでもあるノーマン・ウィットフィールドだ。
ノーマンの作り出すサウンドはいずれもヘヴィーでパーカッシヴなポリリズムを持っている。歌詞もただのラヴソングではないものが多く、例えばこのアルバムにも収録されているテンプテーションズの“Cloud Nine”は、働くことを知らない父親とスラム街の狭い部屋で10人もの兄弟姉妹と育った少年のことが歌われていたりする。



マーヴィン・ゲイは、初期の頃には方向性が定まらず、モータウン入社当初はドラマーで初期のシングルなんかではドラムも叩いていたこともあった。この初期の“Suttubon Kinda Fellow”や“Hitch Hike”なんかは大好きなんだけど、マーヴィン本人はナット・キング・コールのようなメロウな歌モノを演りたかったらしく、そういうレコードもリリースしているのだけどこれはまるで売れず、便利屋のようにキム・ウェストンやタミー・テレルとのデュエットの相手をあてがわれたりもしていたのだが、68年の“I Heard It Throuh The Grapevine”でノーマン・ウィットフィールドとコンビを組んだ以降は、ファンキーなリズムとソフトでシルキーな歌唱のスタイルを確立していくことになる。
ここでこういうスタイルを得たことが3年後の『What's Goin' On』に影響を与えたことは想像に難くない。

ノーマンがテンプテーションズ作品を多く手掛けていた関係だろうけど、このアルバムではテンプテーション作品が4曲、ジミー・ラフィンのカヴァーが2曲も取り上げられた。さらにビートルズの“Yesterday”やヤング・ラスカルズの“Groovin'”、ディオンの“Abraham,Martin & John”ら白人アーティストの同時代の曲がカヴァーされている。





僕がこのアルバムをフェイヴァリットに挙げる理由は、キャリアを通じたマーヴィン・ゲイの魅力がバランスよく発揮されていると思うからだ。
オープニングの“Gonna Give Her All The Love I Got ”なんかは『What's goin' On』以降のメロウなラヴソングを彷彿とさせるし、タイトル曲“That's The Way Love Is”やテンプス・カヴァーの“I Wish It Would Rain”では“I Heard It Throuh The Grapevine”流の重いファンク、“Abraham,Martin & John”での社会的メッセージへのコミットや“Cloud Nine”でのアグレッシヴさ、かと思えば“How Can I Forget”や“No Time For Tears”は初期のR&Bシャウターの姿、“Yesterday”ではナット・キング・コールになりたかったマーヴィンの姿も垣間見える。
マーヴィン・ゲイ像を一枚で俯瞰するのならこのレコードだな、と思うのです。



マーヴィン・ゲイという人の本質がどこにあったのかは正直よくわからないのだけれど、とても器用な人だったことは間違いない。
本当に自分が憧れたものと、周りから求められるものとの間で思い悩みつつも、求められた役割を器用にこなしてしまう。
器用にこなせばこなすほど本当に自分が求めるものとのギャップが明らかになることに苦しみながらも、やはり求められるものを演じてしまう。
そんなマーヴィン・ゲイ像が僕にはあるのだけれど、実際のところはどうだったんだろうか。

いずれにしても、60年代後半のモータウン・サウンドの集大成的な意味合いでも、この『That's The Way Love Is』はもっと評価されてもいいアルバムだと思う。








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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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