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◇空をあおいで

組織にはいつも何かしらの風が吹いている。
風見鶏になったり、風向きを先回りして読むのは大嫌いだが、組織の風向きをつかむということは、自分自身楽しく働く上ではちょっと大事なことなのだ。
で、どういうことがあったからなのか詳しいことはよくわからないけれど、先週の半ばくらいから「残業削減!定時で帰れ!」の嵐が吹きまくっている。ただでさえいくら仕事したって片付かないくらい課題は山積みなのに、とにかく「帰れ!」。僕はどちらかというと、残業代なんていらないからとことん満足するまで自分のペースで仕事させてほしい方なので今回の風はかなりの逆風なのだが、定時になったら役員が降りてきて睨みを効かせてるような激しい突風だから、ちょっと逆らうのは得策ではなさそうだ。
まぁいい。だったら発想を変えてみよう。
自分の時間内でできるだけのことをやってみる。空いた時間で何か違うことをやってみる。これもひとつのチャレンジだ。長いこと生きていると人間だんだん凝り固まって意固地になってくるから、たまには外圧を利用して今までと違うことをしてみるのもそれはそれで悪くない。ま、どうせいずれ風はぱったり止んだりするのだろうからね。
吹き飛ばされないようにうまく風に乗りながら、しかし、風に流されないことが大切だ。


さて、そうは言ってもなかなか定時で帰ったことなど今まで早々ないものだから、なかなかリズムがつかめない。
ついつい仕事帰りに本屋とかCD屋をうろうろしては時間を潰したりしてしまう。
そんなこんなでぶらぶらしていた本屋で見つけたのがこの本。

空をあおいで
空をあおいで / こだま和文




こだま和文さん。
インストのレゲエバンドであるMUTE BEATでトランペットを吹いていた人だ。
「へぇ、こだまさんが本なんて出してたんだ。」とつい手にとって、引き込まれてしまった。

トランペットっていう楽器はどちらかというと、とてつもなくお調子者か、とんでもなくかっこつけに陥りがちな音色の楽器だけれど、この人のトランペットは後ろではねるスカやレゲエのビートとは対照的に、とても物静かでどこか悲し気だ。かといって、マイルス・デイビスのミュート・トランペットのクールな静けさや悲しみともちょっと違う。マイルスの音色にはどこか確固とした信念のようなものがあるけれど、こだまさんの音色はもっと頼りなげな感じがする。
ああなんだろうか、こうなんだろうかと迷い迷いながら、ひとつひとつ余計な飾りを剥ぎ取って、正直なココロが歌おうとするかすかな歌声に耳を澄ませて聴こえてきた音をなんとか手探りでつかみ取ろうとしているような、そんな音色なのだ。
その音がかっこいいのかかっこ悪いのか、正直僕にもよくわからない。
でも、とても信用できる音だ、と思う。言い換えれば安心できる音。
そこにあって、ただ鳴っているだけでいい、と思えるような音。



“その日その時、何を食べるのかを考え、できる物を作る。そこから次なる感覚やアイデアが生まれてくる。日々の暮らしの中の感覚。食事だけに限った話ではない。”

“新鮮な素材と気分で、必要な分だけ作り、美味しくいただいたら消えてなくなる。これがいい。”

“とにかくひとつひとつあきらめることだ。もっと有名になりたい、もっといい生活がしたい、もっと美人になりたい、もっと人に好かれたい、もっと、もっと・・・あるいはあいつを殴りたい、人を殺したい、リベンジしたいetc、ひとつずつあきらめよう。とことん自由になるためにもっとあきらめるのだ”

“とにかくひとつひとつやっていくことだ。大きな難問を抱えているからといって、一気に解決しようとしなくてもよい。”


こだまさんの書く文章も、そのトランペットの音に似て、とてもシンプルで飾りがなく、淡々としていて、その淡々さがとても心地よい。喜びも悲しみもごちゃまぜにしてただ日々の暮らしを切々と紡いでいくことがほんとうの強さなんだよ、とそっと語りかけてくるような淡々さ。静かで、迷い迷いながら少しづつ余計な飾りを剥ぎ取っていった果てに浮かび上がってきたような言葉。
その言葉は、こだまさんが長い年月を、欲望をあきらめてあきらめてあきらめて、余計なものを捨てて捨てて捨て続けてきた果てに得たものなのだろう。
そんな境地にはまだまだとてもなれそうもないけれど、そういう穏やかさを得るために、この先十数年だか数十年だか暮らしていくのも、それはそれでまんざら悪いことでもないような気がするのだ。


空をあおいで、その空に流れているトランペットの音色に耳を傾けてみよう。
吹き飛ばされないようにうまく風に乗りながら、しかし、風に流されないことが大切だ。


1982/2002
1982/2002 /こだま和文


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コメント

[C29]

Okadaさん、毎度です。
>働いていない時間と同じくらい、働いている時間が好きなんでしょうね。
そうなんですよね。働いている時間には働いている時間の楽しさがあって、働いている時間が充実するから働いていない時間も充実するのだと思います。そのへんのバランスですよね。毎日の“やりきった感”が妙に中途半端になると、働いていない時間もなんだかちょっと中途半端な感じがしてます。しばらくは、ぶらぶらしたり、本をたくさん読んだりしようかな、と思ってます。

[C28]

今まで残業をしていたのに突然残業禁止になると、きっとしばらくは戸惑ってしまいますよね。でもそれに慣れてくると、仕事の質が上がって結果的に企業にとってはプラスになる、という計算でしょうか。
ぼくの会社で残業が禁止になることは今後も無さそうですが、もしそうなったら、どうするだろうなぁ。元々残業代は付かないので収入は変わらないけど、夜のバイトとかするかもしれませんね。結局、働いていない時間と同じくらい、働いている時間が好きなんでしょうね。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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