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ロックの正体


ロックの正体 歌と殺戮のサピエンス全史/樫原辰郎

タイトルと本のカバーからはワイルドでヴァイオレンスな印象がするけれど、その印象とは裏腹に、文化としてのロックを文化人類学的に捉えた本。
帯にはこのような紹介文が書かれている。

「ロックとはなんだったのか? 進化心理学、認知科学、神経科学、人類学、霊長類学、自然主義哲学、二重過程理論、処刑理論、生物学的市場仮説、お婆ちゃん仮説 etc. ――最新のサイエンスと歴史知識を駆使してロック文化を多角的に考察する。情熱的に語られがちなロックを、冷静に、理性的に、縁側で渋茶をすするお爺さんのように語る、前代未聞のポップカルチャーの哲学。」

第1章から第3章くらいまでは、ロックの特性を衝動性と祝祭性として、それは元々サルからホモ・サピエンスに進化していく過程で得た人類の特性と大きな関連性があることを論じている。
第4章は、ロックのルーツである黒人音楽と白人が出会ったのは、奴隷貿易下の三角貿易のネットワークの平和利用によるものと言及。そこから、60年代〜70年代に起きたロックの進化や隆盛、サブジャンルへの分岐などに沿って、心理学やら脳科学やら資本主義やら哲学やらがロックを通じて論じられていくという構成。
ロックを語るというよりは、ロックを通じて人類を考察するといった方が正しい。
アーティストのバイオグラフィーやらアルバム紹介などは一切なく、一方でアリストテレス、ルター、フロイト、サルトル、フランス革命、ロシア革命、サリンジャー、ジェームス・ディーン、アメリカン・ニュー・シネマなどなどロック以外のいろんな事柄が出てくるわけで、ロック史はもちろん、大雑把な世界史と文化をある程度抑えていないといまひとつ楽しめない本ではあるが、僕のような理屈好き人間にはなかなか楽しめるものではあった。

素朴な感想としては、こういう論じられ方がされるほどにロックという文化は成熟したのだなぁということ、言い方を変えればすでに時代と並走して進化を続ける文化ではなくなり、終わってしまった文化なのだなぁ、ということでもある。帯の紹介文も「ロックとはなんだったのか?」と過去形ですからね。
60年代黎明期から70年代半ばまでが文化としてのロックのピークであり、その後は商業的には80年代がピークとなるものの、細分化を繰り返しサブジャンル、サブサブジャンルの発生に連れて縮小再生産を繰り返して衰退していった。

もうひとつは、こういうふうにロックを俯瞰しながら、熱や愛情は前提としてありながらも冷静に論じることができる視座というのは「同世代的」だなあ、ということ。
著者は1964年の生まれで僕もほぼ同世代。
商業化された80年代以降のロックを聴いて育ち、当時まだ現役最前線にいたロックのオリジネーターたちを通じて60年代70年代の隆盛期の魅力を知った世代だ。
最隆盛期の熱量の高さをリアルタイムで体験できなかった残念さとともに、リアルタイムで経験していないからこそ持ち得る冷静な視点。
これはあと10才上でも10才下でも持てない視点だろうと感じたのです。



ちなみに、著者による「ロックの正体」とは。

ロックの誕生はそもそも言葉や音楽といった文化を奪われて歴史を切断された黒人奴隷の音楽を、10代の白人が真似したことに始まる。(中略)物真似から始めて、未来を想像する行為、それがロックの正体である。
それは、押し付けられた教育から始まったものではなかった故に、新しい若者像まで創造した。具体的に言うと、広域スペクトル革命の文化的な再現、それがロックの正体である。

うーむ、ここだけ引用してもまるで伝わりませんね。
この部分は著者が言うところの「熱い言葉」で書かれているけれど、人間の思考はそもそも2wayで、主観的な思いと客観的な分析は表裏一体のもの。
二度三度と再読する中で新たな理解と発見があるような本かも知れませんな。





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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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