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music for 24hours⑥

夜の始まりはきらびやかに。
高速道路の灯りや、高層ビルの作り出す夜景。行き交う車のヘッドライトや街のネオンがキラキラした彩りを添える。

19:00
The Nightfly/Donald Fagen


オレンジ色の誘導灯の滑走路を滑るように離陸する飛行機。
窓の外に広がる都会の夜景。
“Nightfly”というのはてっきり夜間飛行だと思っていたのだけど、実は夜行性の蛾のこと。
レスター・ザ・ナイトフライというニックネームの深夜放送のDJがこの曲の主人公だ。
英語でFly by nightという、信用できない・うさんくさい・一時的な流行の、といった意味の慣用句があるからそれを自虐的に使ったのだろう。

 独立ステーションWJAZ
 ベルツォーニ山の麓から
 ジャズと粋なトークをお届け
 素敵な音楽を今夜は僕が独り占め
 朝日が地平線から覗くまで
 深夜放送をお楽しみください

軽快に、滑るように、夜が始まる。
順調に仕事を片付けてスイッチを切り替えて、とりあえず近所のコンビニでビールを買ってプシュッ。
一日の中で一番開放感を感じる時間帯かも知れない。

そんな夜の始まり。
トランジスタラジオから流れるイカした音楽と一緒に疾走していくこの曲を。

20:00
アンジェリーナ/佐野元春


この疾走感は初めて聴いたとき、めちゃめちゃ衝撃的だった。
歌謡曲はもちろん、当時流行のニューミュージックにはなかったかっこよさで、たちまち佐野元春の大ファンになったのが中学3年の頃。

アーリーティーンの夜8時っていうのはまだまだエネルギーが余ってたんだろうね。家になんかこもってないで遊びに行きたい。もっともっといろんなことを経験したい。でも現実的には勉強しなくちゃいけないし、お金もないし、そもそも田舎だったから夜の8時にはなぁーんにもなかったし。現実的には家にいて家族と過ごしてテレビを見るくらいしか選択肢がなかったのだ。
そんなティーンエイジャーが余ったエネルギーを燃やし尽くすようにロックンロールに夢中になっていったのは当然のことだったのかも知れない。
塾をサボッて本屋で漫画を立ち読みして、自転車をぶっ飛ばしながら大声で“おーアンジェリ〜ナ〜”とわめきながら真っ暗な坂道を転がっていく少年の姿がこの歌の記憶に刻みこまれている。

21:00
The Night/Bruce Springsteen


デビュー当初の佐野元春がブルース・スプリングスティーンの強い影響を受けていると知って聴いたのがこの曲も入っている『Born To Run』というレコード。針を落としたときから一気に引き込まれていった。
佐野元春とスプリングスティーンの関係を、パクッていると揶揄するのは簡単だけど、僕は佐野元春がハードロック・ヘヴィメタルかツッパリ系かになっている日本のロックに敢えてそれ以外のロックを展開させるために意図して導入したものだろうと思っている。サックスやピアノを主役にしたアーバンで疾走感のあるロックなんてそれまで日本にはなかったのだ。

と、そんなことよりスプリングスティーン。
この曲に刻みこまれているような、名もなく金もなく、ストリートの端っこでうろうろしているだけの負け犬みたいなスプリングスティーンはとてもかっこよかった。
“Spirit In The Night”“Something In The Night”“Because The Night”“Prove It All Night”と、スプリングスティーンの初期の作品には夜をテーマにしたものが多い。
昼間の社会ではじき飛ばされた人たちが、自分を取り戻そうとエネルギーを炸裂させるのがスプリングスティーンが描き出す夜の光景で、一攫千金を狙う奴らや、夢に破れた奴らや、再起をかけて飛び出そうとしている奴らがたくさん溢れている。

午後9時という時間は、良識ある人はもう家に帰ってくつろいでいて、そういうささやかな幸せからあぶれた人々がたむろする時間帯。
そんな夜の都会の風景にスプリングスティーンが、ときに悲しくときに雄々しくときに優雅に響き渡る。




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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