fc2ブログ

Entries

Picture This/Huey Lewis & The News



golden(以下g):「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『Picture This』、邦題は『ベイエリアの風』とかいうタイトルだったけど。このアルバムのリリースが1982年。ここからいよいよリアルタイムで聴いたアルバムです。」

blue(以下b):「高校一年の頃やな。」

g:「この年の夏、住んでる町にレンタルレコード店ができて、音楽を聴ける環境が一気に変わったんだよね。」

b:「駅前の雑居ビルの二階な。」

g:「LPレコードなんて子供の小遣いではそうそう買えなかったからね。レンタルレコード店ができる前は、友達にダビングしてもらうか、FM番組でエアチェックするしかなかった。」

b:「曲の頭が切れてたり、途中で喋りが入ったりしたのを一生懸命何回も聴いたわ。」

g:「そのうちFM雑誌を立ち読みして、番組の内容やかかる曲をチェックすることを覚えて。」

b:「アルバム一枚まるごと流してくれる番組とかあったな。」

g:「でも“これ聴きたい”と思ってもそうそうラジオでかかるわけもなく。だから、聴いたことのないフェイヴァリット・レコードが山ほどあった(笑)。」

b:「そういうふうに受け身にならざるを得なかった音楽の聴き方が、レンタルレコードでガラッと変わったもんな。」

g:「夏休みにバイトしてステレオも買って。」

b:「炎天下に廃電線をゴムとアルミと鉄と銅に分ける仕事。めちゃくちゃしんどかったなぁ。」

g:「掘っ立て小屋みたいなところで黙々とね。」

b:「ダブルデッキの奴がな、欲しかってん。」

g:「なんとか金貯めて、日本橋の電気屋をはしごして。」

b:「アンプはダイヤトーンがいいだの、スピーカーはデンオンでプレイヤーはナガオカで、とかオーディオにうるさい奴がおったな。」

g:「そいつ、オーディオに凝りまくっていい機材をいっぱい持ってたんだけど、聴いてたのは松田聖子だった(笑)。」

b:「そーゆー時代やったんやって(笑)。」

g:「あと、もうひとつ音楽環境が大きく変わったのがミュージック・ビデオ。『ベストヒットU.S.A』が始まって、最新の海外のヒット曲がガンガン流れて。」

b:「それまで動いてる外タレとか見たことなかったからな。」

g:「『ベストヒットU.S.A』でチャートをチェックして、翌週レンタルで借りる。50円でも安くあげたいから当日返却で。」

b:「カセットテープも決して安くはなかったから、余らさんように苦労したり。」

g:「48分とか中途半端な収録時間のアルバムとか困るんだよね。46分じゃ収まらないし、54分だと余る。」

b:「やむなく一曲カットして録音したアルバムとかもあったわ。」

g:「曲名を一生懸命丁寧な字で手書きしてね。」

b:「120分テープが巻き付いてあかんようになってしもうたりな。」

g:「あれ、悔しかったよねぇ。」

b:「なかなか昭和な話題やな。こうやって思い出すと石器時代の音楽環境やったんやな。石器時代よりはましか、縄文時代くらい(笑)。」

g:「まぁ、ステレオとレンタルレコードと『ベストヒットU.S.A』が当時の僕の音楽環境を大きく変えたことは間違いない。」



b:「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースもそうやって出会ったんやった。」

g:「『TOTO Ⅳ』や『Chicago16』、ジャーニーの『Eacape』なんかは誰でも聴いてたんで友達に借りたんだったっけ。」

b:「エイジア、フォリナー、ビリー・ジョエルなんかもな。」

g:「で、友達が持ってなくて自分で探して出会ったのが、ジョン・クーガー、ブライアン・アダムス、プリテンダーズ、U2、J・ガイルズ・バンド、それからヒューイ・ルイス&ザ・ニュースだった。」

b:「“Do You Believe In Love”が気に入ってん。レコードジャケットのおっさんの顔のアップにはちょっと躊躇したけどな。」

g:「当時の日本盤のジャケットは、売れっ子だった鈴木英人さんが描いたイラストだったんだよね。」

b:「この曲みたいな爽やかなイメージからなんやろうけど、中身はそれほどおしゃれでもなく全然チャラくもない。それが良かってん。」

g:「当時はチャラチャラしたバンドがいっぱいデビューしてきた時期だったからね。雑誌なんかの取り上げ方もアイドル扱いの。」

b:「洋楽アーティストがアイドルっぽく支持されるっていうのも70年代後半〜80年代前半特有の文化やったな。ああいうのとは違う、もっと骨のあるのが聴きたい、って感じやった。」

g:「翌年のメガヒットを連発した『Sports』はもっと泥臭くなったけどね。」

b:「『Pictute This』のほうがちょっとだけA.O.Rっぽい雰囲気を漂わせてるな。この先どんどん泥臭くてブルージーなロックにハマっていく前の入口としてはこれくらいがちょうどよかった。」

g:「確かにA.O.R風の曲もいくつかあるけど、骨太な曲もいっぱい入ってるよね。」

b:「“Workin' For Livin'”とか“The Only One”とかイケイケのロックやし、“Givin' It All For Love”とかパブ・ロックっぽさもあるしな。」



g:「この曲はシン・リジィのフィル・ライノットの曲なんだよね。」

b:「ヒューイ・ルイスはハーピストとしてシン・リジィのツアーにも参加してたらしい。」

g:「バンドの方もエルヴィス・コステロのファーストのバックを演ってたらしいし、そういう情報を得ては、じゃあ次はコステロ聴いてみよう、とかね、次々と広がっていった。」

b:「ラストの“Buzz,Buzz,Buzz”も泥臭いR&Bのカヴァーで、後に古いR&Bが好きになっていく要素もすでにここにあったりもする。」



g:「アメリカ人らしい陽気さと、ただ明るいだけではないブルース・フィーリング。ポップだけど狙ったポップさじゃないポップさ。」

b:「全盛期にライヴも観たけど、この人たちはほんまに巧いし、エンターテイナーやし。音楽が心から好きなんやなって思える演奏やった。」

g:「老若男女、どんな国のどんな民族でも好きになれそうな間口の広い音楽性がいいよね。」

b:「あれからいろんな音楽を聴いてきたけど、結局こういうベーシックなのが一番ええな。尖りすぎずポップすぎず、誠実にルーツと向き合う良心的な音楽、っていうか。」

g:「アメリカの良心。」

b:「明るく陽気で誠実っていうのがなによりやろな。人も音楽も。ま、俺が言うのもなんやけど(笑)。」



スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://goldenblue67.blog106.fc2.com/tb.php/1852-f70f9a73

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

Profile

golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

Calendar

05 | 2023/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

Gallery

Monthly Archives