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新宿を語る 冬



西口バスターミナル
乾いた空に冬が舞う
ホテルの電光クリスマスツリー
雪の休暇を歌ってる
北風に負けたレインコート
それでも骨まで凍るほどでもない
「全部洗い落とせる雨でも降らないか」って
君が言った

ジングルベルのアーケード
ラッシュの人波で暖をとる
地下鉄のメロディーにさえ市民権
そんなはずじゃねえだろビートルズ
家路辿り疲れた古い革靴
それでも履き捨てるほどにはボロでもない
「半端な白夜を突き破る炎の柱立てばいい」って
君が言った

(新宿を語る 冬/仲井戸麗市)

新宿には何度も行ったことがある。
ライヴで盛りあがったあと、酔っぱらった足でうろうろしながら宿を探しまわったことも度々。
東新宿のはずれでなんとか見つけた素泊まり5000円の安宿は共同キッチン共同トイレの和室だったり、まるで軍隊の寝床のようなカプセルだったり。宿を見つけられずにネットカフェで一夜を明かしたこともあった。
その夜はぐっすり眠れるはずもなく、早朝から歌舞伎町の路地裏に山ほど積まれたごみ袋めがけてカラスたちが順番にアタックを繰り返す光景をただただ眺めていた。
繁華街の朝は深夜までのお祭り騒ぎが嘘のようにしんと静まって、ネオンは朝の寝ぼけた光の中ではとてもしょぼくれて見える。竜宮城のように見えた建物がただのあばら家だったことが朝の光の中で露わになる。路地の隅にへばりつく吐瀉物だけが夕べの忘れ物で、たまに隅っこにうずきまっている酔っぱらいだけが夢の続きに苛まれている。
僕だってきっと他の人からみたら同じように見えたことだろう。

よくよく考えれば不思議でも何でもないことだけど、京都の河原町や大阪の梅田や難波で宿泊したことがない。帰れるからだ。若かりし頃に一回か二回は夜通し飲み明かしたことはあるにせよ、河原町や梅田や難波の早朝の光景を僕は知らない。なのに新宿の休日の早朝の光景はよく知っている。

もうすぐクリスマス。
コロナ禍なんてなかったかのように街は賑わっている。
チャボの歌のように、新宿もきっと華やかなイルミネーションで飾られて、人々が慌ただしく行き交っているのだろう。
突然の寒波が訪れて、ポケットに手をつっこんでもかじかんだ指はいつものように動くことを頑ななまでに拒否をする。あぁ、手袋片方どこかに落としてきちゃったよ。
今年は冷えるな。
テレビでは雪国の道路の立ち往生のニュース。トラックが為す術もなく何台も何台も列をなしている映像が映される。走るという機能を奪われた車は悲しいくらいに滑稽で、ただただ待つ以外に選択肢がない。
あの中には、誰かのクリスマスプレゼントが紛れこんでいるのかもしれない。枕元に届かなかったサンタクロースの無念の上に雪は無常に降り続ける。

「全部洗い落とせる雨でも降らないか」
「半端な白夜を突き破る炎の柱立てばいい」

そう言った君の気持ちはわからないでもない。
どこかでリセットすることができるのならやり直してみるのもありだろう。
全部を洗い流し、全部を燃やし尽くして。
でもそれはたぶん、ここではないどこかへの幻想でしかなくて、リセットしたところでおそらくは同じこと。実際のところは雑多で複雑にいりくんで古ぼけたここで起きていることを受け入れるしかないのだ。
ネオンで煌びやかに飾られた繁華街はほんとうはただのあばら家なのだ。ここではないどこかを探すよりも、雨漏りを修理したり防火設備を見直したりするべきなのだ。

まずは落とした手袋を探しに行こうか、それとも誰かがクリスマスプレゼントで手袋をくれるのを待とうか。でもそのクリスマスプレゼントは雪の高速道路で立ち往生したままだ。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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