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Never Mind The Bollocks / Sex Pistols



golden(以下g):「このレコードを初めて聴いたのはめちゃくちゃ寒い冬の日だったね。」

blue(以下b):「よう覚えてるわ。高校3年の冬休み前やった。」

g:「高校生になってからズブズブとロックの奥深い世界に引き込まれていった僕は、ヒットチャートをチェックしたり気になるアーティストの新譜をゲットしたりする一方で、いわゆるロック・クラシックをどんどん掘り始めたんだよね。」

b:「クラプトン、クリーム、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ツェッペリン、キング・クリムゾン、ピンク・フロイドにドアーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、Tレックス。」

g:「C.C.R、ザ・バンド、イーグルス、ドゥービー・ブラザーズ、バーズ、もちろんストーンズとビートルズ、フー、キンクス、ボブ・ディラン。」

b:「ストーンズもそうやけど、クイーンやデヴィッド・ボウイ、ポリスやクラッシュ、Jガイルズやロッド・スチュワートはバリバリ現役やったしな。」

g:「ほとんどベスト盤だったけど。今ほど昔の名盤は出回っていなかったもんね。」

b:「テレヴィジョンとかヴァン・モリソンあたりは幻のアーティストやったな。」

g:「で、ひととおりのレジェンド・アーティストを聴き漁っていくなかで、最後に残った超大物が、ピストルズでした。」

b:「うん、そうやったなぁ。当時はヘヴィメタル/ハードロック大全盛やったから、パンクなんかクソミソ扱いやったもんなぁ。」

g:「まともな人間が手出ししてはいけないような感じがあったよね。」

b:「パンク聴いてるってだけで後ろ指刺されるはおろか、村八分にあった上で市中引き回しの上磔獄門的なくらい背徳感があったな。」

g:「でもどうしても聴きたくなって、レンタル屋で借りたんだよね。」

b:「いや、ほんま、ほんの数年前までさだまさしやオフコースに感動してたお子ちゃまがピストルズやで。なんてゆーかな、ここ踏み越えたらもう戻られへんのちゃうかって思ったな。」

g:「借金返済のための別のサラ金に手を出すとか、最初は1000円くらいでちまちまギャンブルしてたやつが、万札の束を突っ込むようになるとか、それくらい二度と戻れない悪の道へ走るような気がしたよね。」

b:「カウンターにあの黄色とピンクのレコードを持っていくのは、エロ本買うより恥ずかしいかったわ。」

g:「めちゃくちゃ勇気がいった。」

b:「帰り道、自転車の籠にレコード放り込んで、誰にも合わないように全速力で漕いだ。もし誰か知り合いに会って、ピストルズのレコードを見られたら、そいつを刺殺しかねへんかったな。」

g:「いや、ほんとに。」

b:「で、家帰って、ヘッドホンで爆音聴いて、ぶちのめされた。(笑)。」

g:「あの時の衝撃は忘れられないよね。」

b:「こんなすげえ奴らがおったんや、って。」

g:「ヘヴィメタルやハードロックの快感とはまた全然違ってたし、クラッシュやアナーキーとも狂暴さがケタ違いだった。」

b:「圧っていうかな、音に込められた気迫とかエネルギーがな、とてつもなかった。世界中にマシンガンをぶっ放してるみたいに気持ち良かったな。」

g:「スプリングスティーンのときにも言ってたけど、聴くべきタイミングに出会えて良かったなぁ、って。」

b:「あの頃はもう、コンプレックスとフラストレーションの固まりやったからな。受験を間近に控えたドウテイ高校男子(笑)。」



g:「あー、今聴いてもゾクゾクするねぇ。」

b:「“Holiday In The Sun”、“Bodies”、“No Feelings”、“Lier”、ほんで“God Save The Queen”。」

g:「“No Feelings”のイントロのジャカジャーン、ジャカジャーン、ジャカジャーン、ジャカジャーンとかしびれまくった。」

b:「で、ジョニー・ロットンの悪態ついてわめき散らしてツバ吐き散らかすようなヴォーカルな。」

g:「ここまでやっていいんだろうか、みたいな。」

b:「ええねん、やってもーたらええねん、世の中やったもん勝ちやで。」

g:「歌詞はわからなくても、ジョニー・ロットンが歌ってたのは結局はそういうことだったよね。」



b:「当時、ピストルズを下手くそ扱いする奴らが多かったけど、華麗な技術を持たないことが、イコール下手ではないわな。」

g:「まぁ実際の演奏はほんとに下手だったらしいけどね。」

b:「そういうことちゃうねん、下手でええねん。芸術っちゅーもんは、心のありようをどう見える化するか、っていう行為なわけや。下手であることすらさえも表現の一部分やねん。」

g:「技術の有無と表現の質は別、ということですね。」

b:「少なくともこのレコードに残された演奏は超一級やで。もちろんプロデューサーのクリス・トーマスやエンジニアのビル・プライスの功績も大きいけどな。」

g:「ギターを何重にも重ねたり、再生速度をちょっと上げたりして重厚さやスピード感を出したらしい。」

b:「でもそれを措いても、奴らの肚にあった憎悪や怒りや違和感は音を通じて伝わってくるわけや。ギターの弾き方ひとつ、ヴォーカルのフレーズひとつ、ドラムのひと叩きのひとつにまでそういう感情が満ち満ちてるやろ。これは感情をどう表現するかという点でものすごく優れた表現やで。」

g:「なるほど。」

b:「上手いとか下手とかメディアの情報を鵜呑みにしてレッテル貼らんと、自分の耳で聴かんかい、って思うわけよ。」



g:「で、彼らの爆音ロックンロールは結果的に、コンセプト偏重のアタマでっかちや、技術偏重のテク合戦や、ショウビズ偏重売れ線主義に陥っていたロックを再び荒野に戻す功績を残しました。」

b:「ロックは元々主流から外れた場所から生まれたカウンターカルチャーやし、一部の若者たちのフラストレーションだらけの鬱屈した感情にダイレクトに響いたり、世間的な平凡な生き方に反抗したい初期衝動と結びついて発展していった音楽やからな。」

g:「それがいつの間にか、ああでなきゃいかん、こうあるべきだ、みたいなめんどくさいいろいろがくっついてきたり、お芸術化したり、エスタブリッシュメントめいたりしてきて、若者たちが単純に素直に受け止めにくいものになっていってたんだね。」

b:「それを原点に戻って単純化して、若者たちの手に戻したってことやな。」

g:「単純にスゲエ!かっこいいっ!って思えることって大事だよね。」

b:「大人になればなるほど、単純に“これが最高っ!”とか“関係あらへん、知るかっ!”みたいなことは言いにくくなってくるからな。」

g:「むやみに敵を作れないし、物事の両面というか、それぞれの立場や状況も見えてくるし。」

b:「ただな、あちらを立てればこちらが立たず。両方にとって良かれと妥協策を重ねた結果、誰にとっても中途半端なところに落ち着いた、みたいなこともありがちやったりな。」

g:「物事の両面をよく観察して冷静に全体最適を考えるってことはとても大事なことなんだけど、ツギハギだらけのキメイラみたいなもんばっかり生み出しても仕方ないわけで。」

b:「そういうときにはやっぱり原点に戻るべきなんやな。」

g:「そもそも何を目指していたのか、何が一番楽しかったか、何を一番大事にしていたか、何を一番憎んでいたか。」

b:「17才の衝撃からはえらい遠くまで来てしもうたけどな。原点に戻るためのツールとして、大人になってもピストルズは手放せんなぁ。」










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これの出現にはただただ感謝です
刺激的なオルタナティヴ系のバンドはたくさん影響を受けているでしょうから

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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