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◇地球温暖化と、新しい植民地支配と、山川健一 『水晶の夜』

洞爺湖サミットを明日に控え、地球温暖化やらCO2削減やらの観点でのTVの特集番組や新聞記事を見る事が増えた今年の夏。
そもそも『地球を守れ』なんていうけれど、地球はただその時代時代の環境に応じてこれまでも長い歴史の中でその時々に栄えた生き物を滅ぼしながらその姿を変えてきたのであって、人間が守りたいのはあくまで『地球』ではなく『人間がこれからも豊かな暮らしを続けていけるだけの地球環境』なのだ。
農耕の発明と産業革命を経て人類は生きる場所を格段に増やし、この200年ちょっとの間で爆発的に増加し、その贅沢やエネルギーの消費は留まることを知らず膨れ上がっている。いくら声高に危機を叫ばれたとしても、一度手に入れた便利で快適な暮らしをもはや放棄できるわけもなく、「エコライフ」だなんて提言されている、電気をこまめ消すとかレジ袋をもらわないなんてことはそもそも瑣末なことでしかない。環境問題とは、そもそもこの地球に、今ほどの数の人間がこれだけのエネルギー消費をするだけのキャパはない、ということだと思う。
今年に入っての原油の値上がり、小麦とトウモロコシの値上がりがじわじわと家計を圧迫し始め、はじめて「地球温暖化」の問題が自分ごととしてリアルになってきはじめているのではないだろうか?という気がする。ホッキョクグマを救うとか、海面上昇で沈むツバルを救うとか、ミもフタもない言い方をすれば“所詮他人の不幸”的なことではなく、「環境問題」は、もっとリアルに「食糧問題」として僕らの暮らしを圧迫し始めるのだろう。てめえ自身が食べるものがない、という切羽詰まった問題。食糧の生産を握っている国々とその手段を持たない国々の間で、形を変えた新しい植民地支配が始まる。食糧を手に入れることができるものとできないものの間で新しい経済格差が発生する。その一端はとっくの昔に始まっていたのだ、と今になって思う。
かつて植民地支配を行った連中がやってきたことは、武力を背景に人間やその土地を支配することで、支配される人間の貧困の上に豊かな暮らしを享受すること。それと同じことは、武力こそ使用せずとも、言葉巧みに正論を振りかざしながら、外交という名の下に、世界中で繰り返されている。選ばれた民だけが生き残る権利がある、とでも言わんばかりに、片手でヒューマニズムをかざしながらその足で貧しい人々を踏みつけにする。


山川健一氏の1984年の作品『水晶の夜』は、狂ったように気温が上がり、石油も食糧も尽き、失業者が溢れ、人々が狂い暴走し始めた世界を舞台にした物語。
主人公の村野昭夫は、ドロップアウトし、衰退していく世界の象徴として「森」が滅んでいくのを観察することを自らの任務と課す。世界が衰退していくことは、今まで人間が行ってきた欲望を満たすための無謀な行為の必然の帰結なのだから、自分はもはや何もしない、ただ衰退してゆく世界を見守ってゆくのだ、と。そんな彼が、いくつかの出来事を経て、自分の自由を守るために立ち上がり、戦いに参加してゆく。物語中にも登場するジミー・クリフの“The Harder They Come”の歌詞「支配された操り人形として生きていくくらいなら、自由な人間として墓に入った方がましだ」のフレーズのように、或いは「奴等に走らされる前に、自分の足で歩き出すんだ」とキースが歌う“Before They Make Me Run”のように、彼らは立ち上がる。

地球温暖化という言葉こそ出てこないものの(当時はまだそんな言葉が定着していなかったのだろう)、これはまさに今こそ読まれるべき作品だと思うのだが、残念ながら集英社から出ていた文庫本は絶版のようだ。

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水晶の夜 / 山川 健一

この作品に欠かせないのは、“レゲエ”。
実際物語のあらゆる場面でレゲエが登場するのだけれど、単に物語を彩る要素としてのレゲエではなく、この作品はレゲエのスピリットと出会うことによって生まれた物語なのだと思う。
当時山川健一は、自らが影響を受けてきたロックという文化が衰退していくのを目の当たりにして行き先を見失いそうになりながら、ロックとはまったく違うバックボーンから出てきた音楽であるレゲエの持つエネルギーや、そのポジティヴなヴァイヴレーションに傾倒していた。レゲエのスピリットが志向する自然観や宗教観を含め、今まで自分が信じてきたものへの確信と不信の間の揺らぎが、心の葛藤を通じて最終的にひとつのベクトルへ向かっていくことで結晶した物語。
それは若い頃に読んだ時と同じように、ある種のポジティヴなエネルギーを与えてくれた。
エッジへ滑り始めた僕たちの世界で、奴等の思惑に躍らされることなく、奴等に何かを強制されることなく、自分自身のためにこの命を全うしたいと、ただそれだけを願う。
     

Burnin'    The Harder They Come    ウォー・イン・ア・バビロン+リコンストラクション

Burnin’/Bob Marley & The Wailers
The Harder They Come/Jimmy Cliff
War Ina Babylon/Max Romeo & the Upsetters


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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