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5月14日六本木

♪They say everythings can be replased〜

アコースティック・ギターの音色とともに静かにライヴは始まった。
いつだったかも“I Shall Be Released”で始まったライヴがあったと思うけど、その時と違うのはもう一人のギタリスト・山口さんがいること。
伊勢のロックバンド・めれんげのJuke氏とブギーズというバンドの山口さんによるユニット、Juke Boxersのライヴ、場所はおなじみ六本木のバー「Deauce」。

2曲め、ビートルズの“Two of Us”で徐々に会場はグルーヴしはじめる。
昨年秋の東京ライヴは思わぬ腰痛で参加できなかったので、Juke氏のライヴに立ち会うのは実に2019年の秋以来。2年半ぶりということになる。

3曲目、Juke氏の数ある名曲の中でも大好きな“君はわかってる”が演奏される頃には、そんなことはすっかり忘れてしまった。

いつものようなご機嫌なロックンロールと、いつものようなご機嫌なロックンロールが大好きな仲間たち。

もう10年以上も前になる、初めてJuke氏のライヴに参加したときから変わらない、なんとも形容し難いご機嫌なライヴ。



この2年半の間にはいろいろなことがあった。

とても個人的な事情もあるし、コロナ禍という異常な環境への適応の結果ということもあるのだけれど、実際のところ、のこのこ東京まで出ていってちゃんと楽しめるのだろうか、という不安があったのは確かだ。

正直、この2年半のうちに、リアルなコミュニケーションで感情を上手く表現するのがすごく苦手になったという気がするのだ。

ひとつは仕事。いつの間にか上司からも敬語を使われる部署でも一番のベテランになってしまって、娘のような職員たちと一緒に働く上で、若い頃のようにポンポン思ったことを口にできるような立場ではなくなってしまったせいか、瞬間的に感情的にならないことが上手になった反面、楽しさの表し方もどこか周りくどくなってしまった。

もうひとつは母親。半分痴呆でピントがズレた事しか言わない母親の振る舞いにいちいち腹を立てないために、感情を平板にしておく習慣がいつの間にかついてしまった。

そしてもちろんコロナ。人とのコミュニケーションの間に一枚アクリル板がはさまったような振る舞いも身についてしまった。

こうしているうちにもよその国の戦争で命を落とす人がいるということも、おそらく深いところで気持ちを重くさせているだろう。

「楽しめるだろうか。」

そんな不安を払拭して東京まで出かけるつもりになったのは、同じ気持ちを共有できる仲間からのお誘いだったのは間違いない。



ライヴは、スライダーズのカヴァーやら、山口氏の歌うイマジン、若い頃にJuke氏と山口氏がいっしょに作ったというジェームス・テイラーみたいなナンバーやらをはさみ、二部にはエレキに持ち替えての鮎川さんのブルースやルースターズ、さらにはAlleyNutsのギター・ゴッドKazさんとドラムのTatsulowくんを迎えての怒涛のロックンロール・セッションへと転がっていく。
この4人のセッションは、数十年音楽に向き合ってきた猛者たちならではと言える素晴らしいセッションだった。一定以上の技術と場数、そして根本のところでの音楽への気持ちがなければ、ノーリハであんなセッションはできない。
十数分の中で、僕たちが立ち会ったのは彼ら4人それぞれの生きてきた過程だったんじゃないかと思う。

もちろんそれにやんやの歓声を送り、踊りまくる客席でも、それまでの人生がぜんぶこぼれ出ていた。

そしてステージが終わる頃には当然のように、うまく楽しめるだろうかという不安なんてすっかり、微塵もなくなくなっていたのだった。



ステージ終わり、その後のご機嫌な飲みも終わり、後片付け後の深夜12:30、タクシーを待ちながらの山口氏との会話。

「どんな音楽が好きなんですか?」

これはすごく苦手な質問だ。

「うーん、ロックとかソウルとかブルースとか、、、」

「いろいろライヴもよく行きはるんですか?」

そこに「どっちかっていうと、レコード聴くほうが好きなタイプやんな。」とJuke氏。

「うーん、そうやねぇ、どっちかっていうと、、、」

なんとなく開放感でぼぉっとしてたのか、あんまり社交辞令的な返事をしたくなかったのか、そんな曖昧な返事をしてしまった。

ほんとうはこう言うべきだったのだろう。

「今日演ってたような音楽が全部好きですね。」

そして、

「どんなすごいアーティストでもスタジアムやホールではこんなふうには楽しめないし、多分どこのライヴハウスでもJukeさんたちのライヴのような楽しさは味わえないからね。」

と。









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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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