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聡乃学習


聡乃学習 / 小林聡美

「好きな女優は?」と訊かれたら、「小林聡美」と答える。
実際のところ、そういうシチュエーションなどほぼないにせよ。

高校一年生だったかに観た映画『転校生』に主演していた小林さんの、体当たりともいえるぶっ飛んだ演技ですぐにファンになってしまったのだ。
男の子役のときの奔放さと、女の子役のときの不安げな演技のギャップが圧巻だった。
美しさや可愛らしさを売りにするのとは少し違う、もっと人間的な魅力、いや人間的っていうとちょっと違うか、取り繕わず素で反応しているような生き物的なエネルギッシュさと、ナチュラルな聡明さ。
卒論を書いていた昭和の終わりには『やっぱり猫が好き』もたまたま観てたし、パスコのCMもいい雰囲気でした。

そんな小林さんももう50代後半。
若い頃のエッセイのやんちゃさやちょっとウケを狙った表現も今やすっかり落ち着いて。
話題の多くは「体力や運動能力を維持すること」「断捨離」「IT関係の進化と順応」などなどで、ほぼ同世代なだけに、身につまされるテーマも多く、あーそーだよねぇとついつい納得しながらゆるい気持ちで読んだ。

実際、50代っていうのは曲がり角なんだな、と思う。
若い頃のようにがむしゃらにとことん突っ走るだけの体力も情熱も衰える。いろんな出来事に既視感が増え、動じない代わりに感動も減る。新しいものを取り入れようとしなくなってくる。
何か今までにない大きな仕事をやったとしてもある意味そのキャリアなら当然とか、自分ががんばるんじゃなくて後進を育成するほうへ力を注いでほしいとかそういう評価をされてしまいがちだったり。
まぁ、そうなんでしょうね。そういう評価をされてしまう年頃なのだ。
でも、この50代をどう乗り切るかというのは、そのあとの後半ステージの生き方を大きく左右するんだろうと思う。

小林さんのスタンスは、そういう点でもいいなと思う。

「五十を過ぎたら順不同」というエッセイでは、この言葉の意味するものを昔は「ある程度の年齢になったら年長も年下もなく同じ扱いだ」と誤解していたけど、本当は「50才を過ぎたら年齢順ではなく誰がどこでどんな病気になってもおかしくない」という意味だと知って愕然とし、だからこそ「いつ起こるかわからない不測の事態を受け入れられるよう、後悔のない日々を送ろう」と括る。
また別の話では「シニアになったらやっぱり自分の心地よさが一番大事。むきだしの自分でいられる場所を大事にしていきたい。」、「いつかではなく、できること、したいことを楽しんでいこう。」などなど、老いを前に人生を充実させたい言葉が並ぶ。
そう書くと、すごくポジティブでエネルギッシュな感じがするけれど、トーンとしては、なんというか、もっとゆるやかで自然体。
でも、こう書くとすごく意識が高くて優雅な感じがしてしまう。
そうじゃなくて、ジタバタもするし、小さなことで不安になったりもするし、人生の後半戦を充実させようと頑張ろうとは思うけど実際なかなかねー、って感じがあって、意識して作った自然体ではなく、ほんとに気負いなく普通なのだ。自然体というよりは天然といったほうがふさわしいくらい。
「身体を鍛えようとすると、無理がかかるのかずっこけ軽い怪我。きらびやかなスポーツジムは無理。」とか若さやエネルギーを維持するために必死になる感じはまるでなく、だからといって悟ったようにすべてを受け入れていくでもなく、普通なんですよね。
そういう、とても普通で、どこかとぼけた雰囲気と、ジタバタもするんだけど青筋立てたりあるべき論を振りかざしたりしないところに共感してしまうのです。

一番いいなと思ったのは、「終活は早い方がいい」と、断捨離めいて押し込め部屋の若い頃の旅日記をひっぱり出してきた話。
若い頃に書いたその日記を読み返してみて、懐かしんだりあの頃は輝いていたとか回顧するのではなく、「まるで大したことは書いてない」とばっさり。
「それらはただの紙切れで、日記の文字も今の自分と変わらなくて、懐かしいと思うにはまだ少し生っぽくて。」と微妙な気持ちになって、でも、つまらないと言いつつも結局処分はせず、そっと元の場所に戻す。
そういうバランス感がいいなと思うのです。




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コメント

[C3462]

tukikkoさん、こんばんは。
「スイカ」はYoutubeで観ました。
浅丘ルリ子さんの怪演がよかったですね。
「かもめ食堂」は評判良すぎるのでまだ観てません(笑)。
  • 2022-05-18 21:01
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3461]

あー、この本、ポチッとしかけたけれど、セツヤクセツヤクとブレーキをかけたんでした。小林聡美さんのドラマ、映画、けっこう観てます。「スイカ」が大好き。ではまた。
  • 2022-05-13 21:38
  • tukikko
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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