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Charley Patton ロックのゆりかご(4)

チャーリー・パットン(Charley Patton, 1891年4月- 1934年4月28日)はミシシッピ州エドワーズ出身、ブルースのギタリスト、シンガー。
デルタ・ブルースを形作った一人であり、それを世に知らしめた第一人者。
1929年にはパラマウント・レーベルで初レコーディングを行い、この時期に60曲以上の録音を残した。



けっこうなダミ声だ。
これがウワサに聞いていたチャーリー・パットンか。
なるほど、大親分の風格だな。
これがチャーリー・パットンの音源を初めて聴いたときの第一印象。
それは今も変わらない。

残された写真を見ても、大柄でガタイがよく、腕っぷしも強そうだ。
大酒飲みで、宵越しの金は持たない。女好きで喧嘩っぱやい。でも情にもろくて信義に固くて面倒見がよくて。
そういうイメージが歌から立ち上がってくる。




1920年代といえば禁酒法の時代で、そもそも酒を提供するジュークジョイントは違法の闇営業。経営する側も客も荒くれた無法者たちだ。
労働の合間に歌われたフィールドハラーや教会で歌われた賛美歌や黒人霊歌から、ジュークジョイントでの興業へと発展していったブルースは、こういう荒くれ男たちによって作られていったのだろう。

パットンの歌には、すごくイマジネイティヴなものがいくつかある。
例えば“Down The Dirty Road ”はこんな歌だ。

I′m goin' away to a world unknown
I′m goin' away to world unknown
I'm worried now, but I won′t be worried long

My rider got somethin′,
she's tryin′ a keep it hid
My rider got somethin',
she′s tryin' a keep it hid Lord,
I got somethin′ to find that somethin' with

よく知らない世界へ行ってしまうよ
俺はよく知らない世界へ行ってしまうよ
今はとても不安だ
けどこの不安はそう長くは続かないだろう

俺の女は何かを見つけたらしい
でも彼女はそれを隠そうとする
俺の女は何かを見つけたらしい
でも彼女はそれを隠そうとする
その何かよくわからんもんを探しているうちに
俺も何かを見つけたよ

なんだろう、この不思議な感じの歌詞は。まるでランボーの詩くらい抽象的でイマジネイティヴで、どこか隠しきれない不安や狂気がにじみ出ていて。

酒と暴力沙汰、痴話喧嘩と乱痴気騒ぎ、怒りと復讐心と猜疑心と嫉妬、そんなどん底の絶望感が渦巻く中での刹那的な幸福感。
そういうものが原材料にある。
チャーリー・パットンのブルースはそういう諸々を全部受け止めて正々堂々と胸を張って地獄の正面玄関を叩いているような感じがする。

“A Spoonful Blues”は、ハウリンウルフの“Spoonful”の元になったと言われる歌で、この歌もすごく奇妙だ。

In all a spoon', 'bout that spoon'
The women goin' crazy,
every day in their life 'bout a...
It's all I want, in this creation is a...
I go home (spoken: wanna fight!) 'bout a...
Doctor's dyin' (way in Hot Springs!)just 'bout a...
These women goin' crazy
every day in their life 'bout a...

すべてはスプーンの中
そう、スプーンさ
女たちはラリってる
毎日あれで
俺がほしいのはそれ
この生き物がほしいのはそれ
医者は死にかけている
女たちはラリってる
毎日あれで

スプーンっていうのは、ヘロインを溶かすことの暗喩だろうと言われているけれど、この不気味なイメージの広がりはすごくヘヴィーだ。



ギターの腕前もかっこいいんだけど、足踏みしたり、時にはギターのボディーを叩いたり。
おそらくチャーリー・パットンの頭の中には、ギター以外の音も鳴り響いていたんじゃないかと思う。
生きて後にエルヴィスやチャック・ベリーの音を聴いたら「俺が演ってたのはこういう音だ。」とか言うんじゃないかと思う。
この“Hang it on the Wall”なんて、後ろでドラムやリズムギターが鳴ってそうだよね。



その後、チャーリー・パットンが作った雛形を元に1902年生まれのサン・ハウスや、1911年生まれのロバート・ジョンソンが、デルタ・ブルースを継承し発展させていった。

サンハウスの謙虚さや誠実さが見え隠れするブルースは、あんなヤツにはなりたくないという気持ちと、それでもどこか惹かれてしまう気持ちをそれぞれに抱えながらだったのではないかという気がするし、ロバート・ジョンソンはチャーリー・パットンを超えようと腕と表現を磨いたのではないだろうか。

いずれにしても、この時期にミシシッピ・デルタでは豊かな音楽が育まれていた。

このデルタ・ブルースは、戦後、大都市メンフィスへ、そしてシカゴへと舞台を移動しながら酒場の音楽として発展し、やがてロックンロールに大きな影響を与えることになる。









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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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