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Blind Lemon Jefferson ロックのゆりかご(2)

ブラインド・レモン・ジェファーソン (1893年9月24日 - 1929年12月19日) は、アメリカ合衆国で1920年代に演奏活動をしたブルース・シンガー。
本名Brother Will Hairston、テキサス州カウチマン出身、生まれながらの盲目。
いわゆる戦前ブルース、カントリー・ブルースの代表格として知られる。



僕の所有する数百枚のCDをひっくり返してみたところ、一番古い時代の録音がブラインド・レモン・ジェファーソンだった。
録音されたのは1926年〜1929年、日本では昭和になって間もないころだ。
遺された音源の音質はとても良いとは言えず、ヒスノイズの向こう側で少しぼやけたような音が鳴っていて、一聴したときにその良さがすぐに理解できるような心地よい音楽ではない。



こういう古い録音を聴くには、ほんの少しイマジネーションが必要なのだ。
まずは、アメリカ南部の農場やだだっ広い草原を思い浮かべてみる。
それから教会や町並を思い浮かべる。例えばトム・ソーヤーの冒険に出てくるようなアメリカ中西部の町並を。
その町のはずれに古い小屋があって、週末になると酒盛りが繰り広げられている。脳内イメージのカメラをパンすると、日に焼けて真っ黒で腕っぷしに覚えがあるような荒くれた男たちが居並んでいる。その小屋の端のステージには、ギターを抱えて椅子に座っている大柄な男。

・・・ここまでイメージできれば、ヒスノイズだらけの古ぼけた演奏が少し輪郭を持たないだろうか。演奏の合間に、男たちの歓声やら怒号やらすすり泣きやらの声が聴こえてこないだろうか。
厳しい労働に明け暮れた束の間の週末に、ジュークジョイントで酒と音楽で憂さを晴らす。
ブルースやジャズといった音楽は基本、街頭や酒場で歌われ演奏されたもの。
ラジオで鳴っているヒット曲とはまた違う用途で生み出されものなのだ。

そうやってイメージを繋げながら聴き込んでいくと、ブラインド・レモン・ジェファーソンの音楽は実はとても豊かでカラフルだということに気がつく。
ドロドロのブルースもあるけれど、軽快なダンスチューンもほっこりするバラードもあって、少なくとも陰鬱でデモニッシュなロバート・ジョンソンよりは聴き易い。
流麗なギタープレイは恐らくはピアノの音色をコピーしたものなのだろう。



録音技術がない時代、誰かが演奏するのが音楽の再現方法だった。
そもそも「録音する」という概念がないのだから、誰もこの音楽を残しておこうとは考えなかったのだろう。
そんな中で録音技術ができたとき、真っ先にブラインド・レモン・ジェファーソンが選ばれたのだから、かなりフェイマスなスタープレイヤーだったのだろうな。
恐らくはものすごくたくさんのブルースマンやフォークシンガーたちがあっちこちで腕を鳴らしていて、あっちこっちの酒場でプレイされていたのだろう。
残念ながらそれらの音源は遺されておらず、ブラインド・レモン・ジェファーソンの音がその一例として現代に遺されたのだ。

当時、この音を100年後に東洋のおっさんが聴いていると想像できた者はいないだろうね。
ここから始まったブルースが、やがてロックンロールになって世界中の人々をイカれさせてしまうことも。
そのあまりにも豊かで奥深い音楽のルーツとトラディションに、頭がクラクラする思いがする。




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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