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◇僕が泣いてしまったのは、決してスーホや白馬が可哀想だったからではない。

スーホの白い馬―モンゴル民話 (日本傑作絵本シリーズ)

スーホの白い馬―モンゴル民話 /大塚 勇三

少し前のことだけど、娘が国語の宿題でこの絵本を音読していた。
僕らが子どものころにも教科書に載っていたお話だ。
理不尽な領主の振る舞いのために愛する白い馬を殺されてしまうお話。
娘の音読を聞きながら、不覚にもぼろぼろ泣いてしまった。

僕が泣いてしまったのは、決してスーホや白馬が“可哀想”だったからではない。悲しくて泣いたのではない。
悲しい話なのに最後には言いようのない幸せ感というか癒され感にすら包まれてしまうこの感じ、それが一気におし寄せてきてどうしようもなくなってしまったのだ。
この感じはとても言葉に出来そうにないなぁ。
絵本は、少し音楽に似ていて、理屈じゃなく、言葉にしてしまえば正確に伝えられないような何ともいえない微妙なニュアンスを、その微妙なかたちのまんま伝える力を持っている。言葉にすると消えてしまうとても小さなものや目に見えないものを、そのまんまのかたちで心の中にすっと入り込ませてくれる。
そして心の中にその絵本の世界がすとんと出来上がって、登場人物たちが勝手に動き出して物語をどんどん膨らませてゆくのだ。
そんな世界をたくさん心の中に持っていることが想像力を育ててくれるのだろう。


想像力っていうのは誰もが元々は持っているはずなのに訓練しないと消えてしまう能力のようで、時々きっとどっかで想像力をなくしちゃったんだなぁという人に出会ったりするけれど、やっぱり僕は想像力が豊かな人が好きだなぁ。
大袈裟かもしれないけれど、世界中の人たちがもっと想像力が豊かならきっと世の中はもっと平和なんじゃないか…と時々本気で思ったりするのだけれど(笑)、とにかく想像力を養うのには絵本はとてもいい。




仕事でお世話になっていた印刷会社のTさんが退職されることになった。
昔から夢だった絵本の出版関係の仕事にチャレンジするんだそうだ。
Tさんと一緒に仕事ができなくなることはとても残念だけれど、やりたいことがあるのならやりたいことをやってみるのが一番いい。自分で選んだのだから、後悔することはないだろう。
そしていつか素敵な絵本を見せてください。
心の中にひとつの世界がすとんと出来上がって、登場人物たちが勝手に動き出して物語をどんどん膨らませてゆくような奴をね。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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