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音の食卓〈お茶漬け/おにぎり〉

ジョン派かポール派かかと問われると、圧倒的にジョン派だった。

若い頃にガツンと衝撃を受けたロックンロールの熱さやテンションを感じるのはやっぱりジョン。
ジョンの音楽には、生命のエネルギーがあふれている。ゴワゴワしてのみこみにくいところもあるけれど、苛立ちや内省も含めて生々しい。
それに比べると、ポールの音楽は美しすぎる。良くも悪くも室内楽的な落ち着きがある。さっぱりしすぎてちょっと食い足りない。
ただ、大人になってからは、こういう落ち着きも悪くはないと思うようになってきたのは確かだ。

そんなわけでポールのアルバムは全部聴いたわけではないのだけれどいくつか好きなアルバムがあって、駄作と言われながらもけっこう気に入っているのが70年のファースト・ソロ“MaCartney”だ。


MaCartney / Paul MaCartney

ビートルズ在籍中にレコーディングされたこのアルバム、基本、すべての楽器を自分で演奏した宅録作品で、インスト曲も数曲あったり、走り書きのメモをそのまま作品にしたような手作り感がある。

このさらっとした感じは、お茶漬けっぽいな。

真夜中、自分のために自分で作るお茶漬け。
誰かのために飾ることもなく、ただ自身の腹を満たすための食事。



初期のロックンロールにしろイエスタデイにしろサージェントペッパーズにしろ、ポールの音楽はいつでも、別の音楽への批評からスタートしている気がする。「あぁ、そういう感じ?なるほど。僕だったらこんなふうに演ってみるかな」という感じ。
いつも「誰か」を意識してそれらへのカウンターのように音楽を作りながら自分の手法を磨き込んできたポールが、ささっと自分自身のために作ったのがこの作品だと思う。
ウイングスを結成して、また誰かのための音楽を再開するポールの「凪」がここにはある。


Plastic Ono Band / John Lennon

ジョンは最初っから「オレの音楽を演る」ことだけを貫いている。
気に入ってくれるなら応援してくれりゃいし、気に入らないなら聴かなきゃいい、何であれ今演りたいことを演るという姿勢を貫いてきた人だ。

ポールがお茶漬けだとすれば、ジョンはおにぎりだな。



ジョンが「凪」の時期に作ったこのレコードは、まるで飾り気のないおにぎりのようだ。
おにぎりというよりは握り飯と呼んだほうがいいくらいにシンプルな、ただ塩をまぶして握っただけの塩おにぎり。具材はなしか、入っていても梅干しか昆布。
でも、ばくっと食べられてしかも腹持ちがいい。
超多忙なときや肉体労働のとき、さっと食べられてエネルギー効率がいいおにぎりはとてもありがたい。

そもそもおにぎりは、外での労働時にカロリー摂取することのみを目的として自然発生的に生まれてきたメニューだから、目的がはっきりしているだけにとてもシンプルに、炭水化物と塩という最低限必要なものだけで構成されている。
そこには「食べる」という行為の基本型だけがある。

ジョンのこのアルバムに感じるのも、「生きる」ということの基本型だ。
見栄や虚飾を捨てて、ただ生きることに誠実に向き合った結果生み出された音楽だからシンプルになる。
つまりは、炭水化物と塩。







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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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