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ザ・中間管理職ブルース

「やっぱり辞めることにしました。」

彼女がそう申告してきたのは8月のお盆前のことだった。
7月頃に、2週続けて月曜日に遅刻、しかも一度は連絡なしの遅刻をしてきた彼女に、面談をしたところ、「このところすごくしんどくて眠れなくて。」と。
「いわゆるサザエさん症候群的な奴?」
「そうかしれません。皆さんが普通にこなせてることが全然できなくて。」
「そうか、無理せずにな。」
と返したものの、彼女をそこまで追い込んだ張本人が僕自身であることは自覚していた。

そもそもは派遣社員からパート職員になった彼女は、真面目で気遣いができる、とても評判の子だった。
上司からの推薦があって、準社員として自分の持ち場に来ることになったとき、薄々嫌な予感はしていたのだ。

仕事っていうのは難しいね。
与えられ指示されたことをこなすだけではじゅうぶんではない。
どんな仕事にもルールはあって、あまりにもいい加減でテキトーな人間だと、物事はスムーズにすすまないし、トラブルさえ引き起こしてしまうけれど、では真面目ならいいのかというとやはりそうとは言えない。

例えば。
引けば開く扉に「押して」と書いておくとする。
真面目な人は100回でも200回でも押して、挙げ句「開きません」と言う。
いわゆる、真面目なお馬鹿さん。
真面目じゃない人の方が、「これほんとに押すの?」と考えたりする。「どうやったらこの扉は開くのか」と。
こういうことは世の中にはたくさんあるのだ。

完全な事務職や生産ライン系の業種なら真面目は100%美徳なんだろうけど、人と接したり、暮らしを想像した上で提案力やクリエイティヴィティーが求められる業種では、得てして真面目さが邪魔になることがある。
遊び心、共感力、自分自身の経験や感動を言葉や形にする力、そういう能力や、時には常識や規則を疑ってかかることも必要だ。
これは真面目、不真面目という分け方は本当は正しくなくて、何に対して真面目なのかの差だとも思う。
つまりは、指示された形式・様式に対して真面目なのか、自らに与えられたミッションに対して真面目なのか。

「私にはこの仕事は向いてなかったんです。」

彼女の退職届けは速やかに受理された。



元々彼女の資質にないものを求めすぎたのかも知れない。
何気ない指導が彼女を傷つけたかも知れない。
彼女に殻を破って一歩踏み出してほしくて叱咤激励したことが、反って仇になってしまったかも知れない。
結果的には誰にとっても幸福と言えない結末になってしまったことは、とても心残りだ。


はぁ?辞める?
ここから年末までくっそ忙しいときに?
「無理なんです」って?
俺の方こそ無理やわ。
これまでもさんざんといろんなアドバイスしてきたつもりやで。
わかりましたわかりましたって返事だけはええけど、うじうじしてばっかりで結局なんも踏み出せへんかったのは自分自身やろ。
真面目なんか当たり前やねん。
その上で、何を感じてどんだけ動けるかやないか。
辞めるなら引き止めはせんよ。


仕事には向き不向きがあるよね。
向かない仕事を無理してやることないよ。
まして仕事なんて、心の健康を害してまでやるもんじゃない。
しばらくはゆっくり休んで。
いずれ、君らしさを発揮できる仕事が見つかるといいね。


向くとか向かんとか、そんなもん、本気でぶち当たってみんなわからんやろ。
自分は安全地帯から一歩も出ずに、環境のせいにするんやたら、一生そうやってないものねだりしてたらええわ。


この時期に辞められるのは、正直辛いけどね。
でも、まずは君自身の体調が大事だから。
後はみんなでなんとかするよ。


どーせこうなんねん。
因果応報なんやろ。
彼女からの復讐や思うて受け入れたる。
この程度、どうってことあらへんし。
無駄な指導が減る分、反って楽やで 。
まじで。







さて、本当の僕はどっちだろう。
ジキール博士とハイド氏?
表と裏がメビウスの輪?

おそらくはどちらも自分自身。
表と裏や本音と建前なんていう二元論ではなく、どっちも本心なのだ。
思春期じゃあるまいし、どちらが本当の自分だなんて思い悩むことはしない。


いずれにしても、事実として残ったことは、当面の間、彼女の分の業務も一旦引き受けなければならないことだった。
かくして、過労死ライン寸前の超過勤務がしばらく続くことになった。

ザ・中間管理職ブルース。










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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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