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音の食卓〈天ぷら〉

「和食のごちそう」といえば、パッと思い浮かぶのはスシ、スキヤキ、テンプラ。
いずれも敷居の高い高級店があったり、それっぽい和食レストランの看板メニューだったり。
ただ、これらの料理が「高級和食」扱いになったhのはそんなに古い話でもないらしい。
スキヤキはもちろん明治の文明開化までは食べられていなかったし、スシもテンプラも江戸時代にはファーストフード的存在だったそうだ。

江戸の町というのは、時代劇なんかで見るとわりと自由闊達そうなイメージがあるけれど、実は首都機能に特化した町で、住人の多くは地方から参勤交代で上京してきた官僚。そのため男性の比率がとても高かったのだそう。
その食をまかなうために屋台がすごくたくさん出され、そこで安く供されたのが江戸前の海で上がる海産物を使った料理だったのだそうだ。
スシもテンプラも、いつの間にか敷居が高くなってしまったけれど、最初は身近で安価な食材でパパッと作れる庶民的な料理として発達したのだ。

ところで、天ぷらというのはちょっと不思議な存在感のある食べ物だと思う。
一般的に、たんぱく質や脂質はエネルギー源としてからだにアッパーに作用し、ビタミンやミネラルの類は調整役というかバランサーのはたらきをするけれど、天ぷらという調理方法はなぜかたんぱく質や脂質をたくさん使っていてもなぜかアッパーな感じがしない。
揚げもの的な華があるのに寛ぎ感があって、穏やかさや落ち着きが感じられる気がするのです。
味わいもどことなく不思議で、どこか具よりも衣の食感を味わっているようなところがある。中の具材が何であれ、天ぷらとしての味わいが色濃いのですよね。
素材よりも調理方法が優位という食べ物って、他に何が思い浮かぶだろうか。



さて、そんな天ぷらイメージの音楽は、ダイアーストレイツです。


Dire Straits / Dire Straits


ギターバンドなのに脂っこさはまるでなく、華はあるのに寛ぎ感があって、穏やかさや落ち着きが感じられる。
ビールよりも日本酒が合う感じの寛ぎ感。
それから、楽曲そのものよりも、マーク・ノップラーの音色が曲の味わいを決めてしまう感じもなんとなく、天ぷらの味わいに近いような気がするんですよね。
具がエビだろうがさつまいもだろうが天ぷらは天ぷら。
アップテンポでもスロウでも、ダイアーストレイツはダイアーストレイツ。



1978年にこのバンドがデビューしたときは、かなり衝撃的だったそうだ。
それは、パンク/ニューウェイヴとへヴィーメタル、フュージョン/AORとディスコが覆い尽くしていた70年代後半のミュージック・シーンでこんな田舎くさくもっさりしたバンドなんて皆無だったから。
ファースト・アルバムから既に音色もテイストも世界観も出来上がっている。
完成形が既に出来上がっていて、誰もダイアーストレイツやマーク・ノップラーのサウンドに進化や変化を求めたりはしない。
そういう佇まいも、ちょっと天ぷらに似ている気がする。








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コメント

[C3428]

Bach Bachさん、こんばんはー。

売れないジャズバンドの哀愁というか、気骨というか、そういう物語風の歌でしたね、“Sultans of Swing”。
時代の流れと逆行している音楽を演っている自分たちにも重ねたような。
落ち着くいい音ですね。
  • 2021-05-25 21:24
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3427] 大好きです!

どうもご無沙汰しています!

ダイア―ストレイつのこのアルバム、大好きです!音楽もいいけど詞がまたいいんですよね。今でもたまに引っ張り出して聴く1枚です。

[C3424]

非双子さん、こんばんはー。
リアルタイムで聴いておられましたか。

加工されていないギターの音色、エフェクトではなくよく響く音、そうですね、指弾きの柔らかい音色は安定してて安心感がありますよね。

[C3423]

>1978年にこのバンドがデビューしたときは、かなり衝撃的だったそうだ。

当時、ラジオ少年だったんで毎週「ポップスベスト10」みたいな番組を聴き漁ってました。
この曲は、チャート入り前、話題の曲で紹介されてて一発でお気に入りに、、
シングル・レコード買いました!

加工されていないエレキギターの音色が新鮮だったよ。
  • 2021-05-21 19:32
  • 非双子
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  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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