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想像ラジオ


想像ラジオ / いとうせいこう

「こんにちは、DJアークさん。
あるいはおはよう。
もしくはこんばんは。
そちらは今、何曜日の何時でしょうか。
その後、そちらの暮らしはいかがですか。
こちらは相変わらずどんくさいことばっかりです。
新型ウイルスはまるで収まらないどころか、緊急事態宣言を解除したとたんに過去最高更新、慌てて再度緊急事態宣言、なんていうギャグみたいなことになっているし、いろいろイベントを中止にさせてもオリンピックはいまだにやる気。
福島では放射能で汚染された水を海洋に捨てることが企てられている。沖縄ではたくさんの人たちが殺された土地の土を使って埋め立てが行われようとしている。
あの大きな犠牲を払った津波のせめてもの遺産として僕たちの社会はもう少し配慮あるものになっていくと期待したんだけど、社会が変わっていくにはまだまだ時間が必要なようです。

あの津波から10年という時間が経って、今も尚、家族の亡骸を探し続けている人がいる、という新聞記事をこの10年めの春に読みました。
正直「さすがに今さら見つからんでしょ、、、っていうか、見つけたところでどうなるっていうんだろ。」と思ってました。
でも、DJアークさんの放送を聴いていて、ひとつわかったことがありました。
それは、愛する人がどういう状況で命を落としたのか、どんな思いで亡くなっていったのか、、、そのことがわからないと亡くなってしまった人との会話がうまく成り立たないんだろうな、ということです。

死者の無念を共に抱きしめることで、死者が生きている者の中で像を結ぶ、いや、チューニングがあうと言ったほうがいいのでしょうか。
津波に限らず、例えば行方不明になった少女、拉致された娘、遭難した父親、もう命は尽きているとうすうすわかってはいても遺族は捜索をやめない。
僕には正直ピンと来なかったその感情がわかるような気がしてきました。」


はい、ペンネームgoldenblueさんからのお便りでしたー。


だいじょうぶ、こちらは元気です。
どうやら僕の魂はカラスになって生まれ変わっているようで、毎朝山から飛び立っては人間の暮らしを見つめています。
そちらの景色もよく見えていますよ。
新型ウイルスでも、新しいDJがたくさん生まれてしまったようで、耳を澄ませばたぶん聞こえてくると思いますよ。

ではでは。



想ー像ーラジオー。





死者は生者の中で生きる。

生者は死者と共に生きる。

「生き残った人の思い出もまた、死者がいなければ成立しない。だって誰も亡くなっていなければ、あの人が今生きていればなあなんて思わないわけで。つまり生者と死者は持ちつ持たれつなんだよ。決して一方的な関係じゃない。どちらかだけがあるんじゃなくて、ふたつでひとつなんだ。」
「・・・だから生きている僕は亡くなった君のことをしじゅう思いながら人生を送っていくし、亡くなっている君は生きている僕からの呼びかけをもとに存在して、僕を通して考える。そして一緒に未来を作る。死者を抱きしめるどころか、死者と生者が抱きしめあっていくんだ。」

おそらく著者が物語の中で一番伝えようとしたのは、サブ主人公の作家Sが、亡き恋人との会話で語ったこの箇所だろう。
霊と話しているのではない。
作家Sの想像の中で生まれたこの時空こそが、死者と生者が交わる場所で、その場所で死者は生き続けている。

この世で起きているあらゆることは、実は生きている者の脳内で認識されたこと。つまりは想像の産物。
そう考えると、死者は生者の中で生き続けているし、死者と生者はいつも共にあるということは、ある意味当たり前のことなのだろうという気がしてきた。
亡くなった父親なんかは、確かにいまだにしょちゅういる。
そういうものなんだろう。



なかなかに複雑で入り組んだ物語だ。
論理ではなく感覚で捉えるべき物語。
数年後にもう一度読んだとき、また違う発見があるような気がする。




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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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