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音の食卓〈ちらし寿司〉


Greatest Hts / Queen

クイーンは、若い頃はそんなに好きなバンドではなかった。
儲け主義のアリーナバンドだろ、と決めつけ、いまいち興味が湧かないままスルーしていた。
なんていうんだろうか、品がなくて下世話な感じがしてたのだと思う。
もっとストイックで疾走感のある音を求めていたのだろう、すごくぼってりしてギラギラした音楽のような気がしていたのだ。
単純にフレディー・マーキュリーのピチピチのレオタードやムキムキの上半身からはみだした胸毛が苦手だったのかもしれないけれど。

フレディーの映画もスルーしたまんまだけど、改めて聴くとすごくかっこいい。
練り上げられ研ぎ澄まされた楽曲、起伏に富んだ演奏。
4人の演奏が実にカラフルで。
若い頃はメロディーとブライアン・メイのギターしか聴こえてこなかったのだけど(あと、へんちくりんな楽曲構成)、リズム隊の立体感が凄まじいですね。ベースの輪郭がくっきりと楽曲の奥行きを作っていて、そこにカラフルでゴージャスなハモり。そしてあふれるエネルギー。怒涛の力業でグイグイと持っていってしまうパワフルさ。
それから、讃美歌のような美しさ。

この豪華さや美しさは、色とりどりの具材がたっぷりのったちらし寿司みたいだ。
黄色い錦糸玉子やえんどう豆をちらした酢飯の上に、まぐろやサーモン、サラダえび、イクラがたっぷりのった海鮮ちらし寿司。
カラフルに、ゴージャスに、パワフルい、でもそれぞれの具材の配分の中に美しいハーモニーが奏でられるような。



ちらし寿司も、子供の頃はあまり好きではなかった食べ物だ。
子供の頃に食べたちらし寿司には、まぐろやサーモンなんてのっていなかった。
錦糸玉子やえんどう豆以外には、桜でんぶ、紅生姜なんかがトッピングされていてカラフルではあったけど、桜でんぶの甘ったるさとか、えんどう豆の青臭さだとかがどうにも苦手だったな。

でも印象深い食べ物として記憶に残っているのは、お祝いごとのときは必ずちらし寿司だったからだ。
母はちらし寿司を作るときは子供たちに手伝いをさせた。
えんどう豆のさやを剥いて豆を取りだしたり、大きな飯切りに入れた酢飯をうちわで扇いだり。
その手伝いをするのは、実は割りと好きだった。お祝いごとの製作プロセスに参加させてもらえる感覚がなんとなく誇らしく栄誉ある行為に感じていたのだと思う。



クイーンの音楽にも、お祝いごとのちらし寿司のような晴れがましさがある。
おめでたい食材をふんだんに使っての宴席にふさわしいちらし寿司のように、ハレの日のようなおめでたさがある。

ちらし寿司をお祝いの席で食べる風習が始まったのは江戸時代の中頃からだそうだ。
見た目が華やかなことがその理由のひとつ。
厄除けの赤や健康を願う緑、誠実や潔白を願う白など、日常の食事では地味な食べ物しかなかった時代にこの華やかさはおめでたさの象徴だったようだ。
もうひとつの理由は、たくさんの来客にふるまえるようたくさん作るのに適していたからだそうだ。
祝い事のあった家は福のお裾分けをすることで、地域の共同体全体の幸福を願ったということ。
クイーンというバンドも、アリーナにたくさん人を集めて福を配りまくっていたんだよな、と無理やりのこじつけ(笑)。
若い頃には自分のことにしか興味がなかったんだろうな、そういう感覚って、なかなかわからなかったんだけど。




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コメント

[C3414]

名盤さん、こんばんはー。
僕もクイーンのアルバムは、「The Works」と、We are The Championの入ったやつくらいしか聴いたことはないんですが。
80年代前半頃のクイーンの存在感って軽かったですよね。
ソラミミネタとかそんなのが多くておちょくられてら印象があります。

ちらし寿司はお祝いのごちそうっていうのも、僕らの世代にはちょっとピンと来ないですよね(^^)
  • 2021-03-22 22:43
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3413]

ちらし寿司はお祝いの食べ物だったのかぁ。
僕にとってのちらし寿司は、小学生の時に参観日だとか親子面談とかの帰りに母親と食べるものだった。
何故かきまって、帰り道にある店(お寿司屋かおそば屋か忘れましたが)でちらし寿司を食べたのでした。
あれは何故だったのだろう?

クイーンはベストアルバム以外ちゃんと聴いてないですが、ヒット曲が多いので結構耳馴染みがあります。
一番好きなアルバムはライヴ盤の『ライヴ・キラーズ』です!

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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