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音の食卓〈あじの干物〉

年齢を重ねるごとに、洋食や揚げ物よりも和食の方が好きになってきた。
若い頃に当時の大人たちがそんなことを言っていて、そのときは「ジジくせー。そーゆーもんかぁ??」って聞き流していたけど、実際そーゆーもんのようだ。

和食といっても、いわゆる世界遺産と奉られるような料亭っぽいもんじゃない。
もっとフツーの日本に昔からある一汁三菜的なもの。
ご飯・味噌汁・お新香・あじの干物、みたいな。




Ry Cooder / Ry Cooder

あじの干物、と書いて頭に浮かんだのは、なぜかライ・クーダーだった。

なんていうんだろうかなぁ、このなんともひなびた魅力は。
ジューシーでもしっとりでもない。
ガツンとくる旨さではない。
じわじわと、じっくりと、時間をかけて旨みをぎっしり凝縮させた味わい。
清貧な暮らしの知恵から生まれた味わい。

特に好きなのは、古いフォークソングやブルースのカヴァーばかりを集めたファースト・アルバムだ。
ウッディー・ガスリー、リードベリー、スリーピー・ジョン・エスティス、そういった面々の古くて田舎くさい歌を田舎くさいまま歌い奏でている。



食べものも音楽もさまざまな成立過程があるけど、大きく分けると「作りあげたもの」と「生まれてきたもの」がある。
60年代のポップスや昭和の歌謡曲や90年代以降の秋元康に代表される一連のアイドルたちの歌は、最初にマーケットがあって、それに対してコンセプトを練りターゲットを絞って作りこんでいったもの。
どちらが良い悪いと優劣をつけられるものでもないし、相互作用も大きいので対立関係ではないけれど、歌謡曲と違ってフォークやブルースといった音楽は日々の暮らしの中で感じたことを歌わずにおられない衝動から生まれてきたのであって、あじの干物という食べものはそういう点でフォークソングやブルースと同じ成り立ちをしていると思うのだ。

・・・今年はあじがたくさん獲れた。
ありがたいことだけど、村中の人間が満腹なってもまだまだある。
当然冷蔵庫なんてない時代、せっかくの大漁なのにこのままでは腐ってしまう。
日々の食べものに事欠く時代、なんとかこの魚たちを腐らせずに少しでも日持ちさせる方法はないものか。
やがて誰かが、日に当てたまま放置してカラッカラになった魚が腐敗していないことを発見する。しかも、かなり旨い。
そこから人手をかけて日干しして食料を貯蔵する技術が生まれた。

ライ・クーダーが歌い奏でるフォークソングやブルースからは、そういう暮らしへの愛情や共感を感じることができる。
厳しい暮らしの中で歌を紡ぐことやその歌を分け合うことで救われた魂、そういうものへのリスペクトがある。

ご飯・味噌汁・お新香・あじの干物。
まずは毎日ちゃんとご飯が食べられることに、感謝したいと思う春。





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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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