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写真絵画ファインアート展 9/nine sence



古い倉庫を改造したらしいそのギャラリー兼カフェは、オフィス街の裏手の路地にひっそりと佇んでいた。



「どういう展示にしようかすごく悩んだのよ。こう並べたときに、ここに入れたい縦の写真が見つからない、とか。」

「写真ってのは、なんていうか、抽象なんだよね、具体的な何かの記録というよりも。」

「ずいぶん前から準備してたの?えっ、二ヶ月前?いい意味でまきこまれちゃったのね。」

ひっそりとした佇まいとは正反対に、ギャラリーはとても賑わっていた。
あっちこっちで交わされる会話と、小さな音で流れるジャズ、エスプレッソの香りに、僕は心地よい気分に包まれながら、言葉が立ち上がってくるのをぼんやりと待っていた。



人はなぜ、写真を撮るのだろう。
人はなぜ、絵を描くのだろう。

少なくとも、意味や目的が先にあるのではないという答えだけがぼんやりと浮かんでくる。
意味や目的が先にあるのではない。
伝えるべきメッセージが先にあるのではない。
その人が見聞きし感じたことを、その人なりの切り取り方で二次元に還元する。
その切り取り方の中に、その人の感じ方が投影される。
意図的にではなく、無意識の羅列の先に、ひとつの世界観が浮かびあがってくる。
観る人はそれを、言葉を介さずにダイレクトで受け取ることができる。
まるでテレパシーのようだ。
写真家やアーティストはそういう意味で超能力者なんだろう。
そのときに言葉はほとんど必要がない。
テレパシーをそのまま受け止めればいいのだ。



ギャラリーには、世界の断面が8種類あった。
静かなものと熱いもの。
暖かいものとヒリヒリする痛みや孤独を伴ったもの。
溢れるもの、噴き出すもの、こぼれ落ちるもの。
それぞれの切り取り方で切り取られた世界は、まるで違う世界のように存在しながらもなんらかの調和を持っているように思えたのは、少し不思議な感覚だった。
ワタシハコンナコトヲカンジタノ
オレハコンナカンジガダイスキナンダ
そんな呟きの断面から、ひとつの景色が浮かびあがってくる。

ひとりひとりが思い思いの格好で、思い思いのダンスを踊るパレード。

エスプレッソの豆を挽く音や香り、いい具合にブレンドされたギャラリーの灯りと外からの陽光、たくさんのおしゃべりの声までもが、その多様性と調和に寄与しているように思えた。

そういえば、「多様性と調和」をテーマにした世界規模のお祭りが、その精神を全く理解していないおっさんたちに牛耳られていたことが露になったこの2月。
多様性、調和、、、そう言いながらスポーツは闘い、順位を決め、勝者と敗者を作るけれど、アートの世界には競技も順位もない。
それぞれがそれぞれのインスピレーションを形にすることの先に、お互いがその価値を認めあい讃えあえる世界がある。

僕が立ち会ったのは、小さな小さな東京オリンピックだった。







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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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