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音の食卓〈ピザ〉

「500円で本場アメリカのピザが食べ放題!シェイキーズ心斎橋店オープン!」

そんなニュースに飛びついたのはクラスメイトのSだった。
「500円で食べ放題やってよー!今度の日曜日あたり行かへんかー。」
幾人かが賛同し週末の心斎橋行きが計画される。
「おまえも行くやろー?」
「うん、まぁ、ええけど。」

1983年、高校2年生だった。
ギリギリ大阪府内にある、大阪の端っこの田舎の高校。地元の町にあるチェーン店といえば王将くらいだった。
500円で本格ピザが食べ放題。それは確かにセンセーショナルなトピックだったのだろう。
1980年代は次から次へと新しいことが起きる時代だった。アメリカ系資本やその亜流の「新しくておしゃれな」ものが「東京で大流行」という神話とともにどんどんと流れこんできた。
そういうものがお洒落でカッコいい最先端なんだと言われると、カッコつけたい盛りの高校生に抗う選択肢はなかったのだ。
正直言えば、僕はどっちでもよかった。というか、積極支持ではなかった。
月々たかだか3000円程度の小遣いでやりくりしている高校生にとっては、500円ですら安い金額ではなかったし、地元の町から心斎橋までは南海電車で往復660円もするのだから、なんだかんだで月の小遣いの半分くらいを失うことになるのだ。
それならせっせと貯めてレコードの一枚でも買いたかった。ほしいレコードならたくさんあったのだ。
それでも「まぁ、ええけど。」と返事をしてしまったのは、周りから取り残されたくない思春期独特の心細さだったのだろう。

・・・

「食べ放題や、言われても、そんなに食えるもんでもないな。」
「ほんまやな。」
「それに、コーラが別料金や、ちゅうーのは聞いてへんかったわ。」
「予定外やったな。」
「おれ、ピザ、一生分食うたで。」

週末、僕らはこんな感じで微妙な敗北感を味わうことになった。
僕も同じ。どろっと濃いチーズがたっぷりトッピングされたピザは、一切れ二切れまではおいしかったものの、五切れめには胸ヤケがしてきた。食べ放題なんだからと意地になるものの、あとはもうコーラで流し込む状態。お腹こそ膨れたものの、おいしいものを食べた満足感にはほど遠かった。
そもそもみんな実家暮らしで、切実な空腹感には縁がなかったし、ピザなんて、みんなろくに食べたことなんてなかったのだ。
雰囲気に憧れる背伸びの季節にありがちな微妙な敗北。
それ以来、ピザというと、ちょっと微妙なあの気分が脳裏をかすめてしまう。
もちろん嫌いではないんだけど。



なんとなくピザのイメージがあるのは、シンディ・ローパーさんだ。
ちょうどその頃大ヒットしていた「ニューヨークはダンステリア」。
ゴテゴテと飾った奇抜なコスチュームと躁状態はしゃぎっぷりは、たっぷりのチーズにも似た濃い味だったし、レインボーヴォイスと言われた不思議なテイストの声は、色とりどりのトッピングみたいだ。
口に合うのかおいしいのかも正直なんだかよくわからないまま、こういうものが今の最新流行なんだということだけで受け入れていたのかな、当時は。


She's So Unusual / Cyndi Lauper

今聴くと、すごくいい。
なにより声が素敵だし、楽曲は当時思っていた以上にソウルフルだ。
ポップミュージックがたどった歴史を俯瞰で見れば、シンディというちょっと妙ちくりんなポップシンガーが、それまで女性シンガーが暗黙のうちに求められていた役割の壁を壊してブレイクスルーさせたのだということもよくわかる。
淑女でも娼婦でもウーマンリブでもない、一人の女性としてありのままで生きていいというメッセージを普通に自然に体現できたポップシンガーはそれまでいなかった。



時代がぐいぐいと昇り調子にあがっていく変わり目にパッと咲き誇った花。
誰もを引き込んでしまう華やかさやエネルギーがシンディにもシェイキーズのピザにもあった。
僕らは、そういうものを横目で見ながら巻き込まれながら育った世代だったのだ。











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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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