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美味しい進化


美味しい進化 / ジョナサン・シルバータウン

人間が他の生き物と明らかに違う点はいくつかある。
⚫二足歩行すること。
⚫言葉を使って意志疎通すること。
⚫道具を使うこと。
しかし、二足歩行が人間だけかといえばそうではない。チンパンジーやニホンザルだって二足歩行と言えなくはないしダチョウやペンギンもある意味二足歩行だ。
言葉とまでは呼べないまでも鳥は音声でコミュニケーションするし、猿や鳥の中には道具を使って餌を獲得するものもいる。ラッコが貝を石で割るのも道具の利用だし。
そう考えると、この三点は人間のみの特徴とは言い難い。

ならば、本当に人間が他の生き物と明らかに違う点は?
この本によれば
⚫食べものを調理すること
なのだそうだ。

人間は知能が発達したから食べものを調理できるようになった、と思っていたのだけど、実は順序が逆というか、知能と調理には相互作用の関係があるらしい。

そもそも食べものの消化というのは、思っている以上にエネルギーを使う。
風邪をひいたときに消化のいいものを食べるのは、消化のエネルギーを節約して自己治癒力にエネルギーを集中させるためだし、ユーカリを主食に選んだコアラはユーカリの毒を分解して消化しなければいけないせいで眠ってばかりいる。

最初は木の実を石ですりつぶすようなことから始まったのだろう。
すりつぶされた木の実は消化がよく栄養吸収が早い。消化が良い分たくさん摂取できるし、エネルギー余力が生まれる。
その余ったエネルギーを脳に回すことで人間の知能はどんどん発達していった。
そうして火の扱い方を覚え、よりカロリーの高い肉や魚を調理して食べることができ、また余力が生まれては知恵が付き、土器で煮炊きしたり貯蔵したりよりよく料理できる道具を作ったり。
こうなるともうどんどんプラスの循環の繰り返し。
現代人が恩恵を被る冷凍技術やレンジ調理もひたすらこの延長上にあるというわけだ。

人間は他の哺乳類に比べ口が小さく、顎の力が弱く、歯も小さい。胃も小さく、腸も短く、全体として消化器官が小さい。
これらはすべて、加熱によって料理したエネルギー吸収効率の良い軟らかい食べ物に合わせて適応していったものらしい。
それと並行して脳が肥大化していった。
最初に調理を覚えなければ、知能が発達することはなかったし、肉体はもっとゴリラのようにごっつかったのだろう。
日々の調理が進化に大きな影響を与えていった人類の歴史。
食べものは体を作っているのみならず、体を変化させてしまう重要な要素なのだ。



この本の原題は“Dinner with Darwin”。
進化にまつわる話をしながらディナーを、という軽い感じの科学エッセイだ。
「パンケーキの材料である小麦と卵と牛乳はすべて、生き物がそれぞれ子孫を育てやすくするために進化させたもの。だから栄養豊富なのは当然のこと。」
「人間とともに暮らすようになった犬には、進化前の狼に比べデンプンの消化に影響する遺伝子に変化がある。人間から与えられるパンくずに適応したと考えられる。」
「ハーブやスパイスは元々は植物が食べられないための防御機能として生成している化学物質。TRP受容体は毒かもしれない物質を辛みや苦みとして警告するが、その化学物質が問題ないとわかればその刺激を楽しむことができるように脳の受け取り方が変化する。」
「糖分、脂質を摂り過ぎた結果、病気になってしまうのは、糖分も脂質も入手しにくく貴重だったから。そもそも貴重前提なので摂り過ぎは想定されていない。特に果糖はホルモンが糖のように認識しないため摂り過ぎになりやすい。」
などなど、食と進化に関わる話が盛りだくさん。

こういう興味深い本を、醤油煎餅でもかじりながらコタツで黙々と読んでいるのが冬の幸せだ。
煎餅ってのは塩分と糖質と脂質とアミノ酸がベストバランスで、こういうものを旨いと感じるように人間は進化したわけだ、などと思いながら、こういう暮らしをしているうちに、熊みたいに冬ごもりができるように進化しないものかと夢想したりして。
もちろん進化は、こういう暮らしを何世代も繰り返した果てに起きるわけで、自分自身がその機能を備えることは不可能なのですが。






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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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