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音のパレット〈マルーン〉

マルーンは、黒や紫を帯びた赤。
この色には大人の色、高級な色というイメージがある。
近似色である葡萄茶(えびちゃ)色やえんじ色を含めてそういうイメージがするのは、関西人なら阪急電車や阪急百貨店のイメージのせいもあるだろうけれど、そのせいだけでもない。
深みがあって、ほろ苦くて、でも大人しか味わえない芳醇な香りと甘みがあって。
ワインのイメージなのかな。
ボルドーやバーガンディなど、ワインの色がそのまま色の名前になっているものも、マルーンの近似色だ。
あるいはピアノなんかでよく使われるビロードの敷物の、ああいう艶や光沢となめらかな肌ざわり。

そんな大人の落ち着いた色に合う音楽で大好きなのは、ボニー・レイットさんだ。
70年代前半の西海岸っぽい伸び伸びと爽やかな作品群も大好きだけど、落ち着くのは80年代中期以降のアルバム。
例えばこの“Luck Of The Draw”。


Luck of the Draw / Bonnie Raitt

このアルバムは大ヒットした89年の“Nick of Time”の続編的な作品。
ブルースというよりはややAOR寄りのサウンドだけど、とても聴き心地のよいアルバムだ。

そもそもボニーさんがデビューしたのは1971年、まだ22歳の頃で、女だてらにスライドギターを弾きこなすワイルドな面とたおやかなシンガーソングライターっぽさが売りで通好みの存在だったらしい。
けれど、なかなかヒットに恵まれず、本来の資質とは離れた売れ線狙いのプロデュースを強いられた挙げ句、ワーナーから契約を打ち切られてしまう。
私生活でも失恋やトラブルが重なり、失意の底でアルコール中毒になった数年間を乗り越えて、6年ぶりにレコーディングされた89年の“Nick of Time”でシーンに返り咲いたのだ。
そういう挫折や紆余曲折の中で迷いを吹っ切ったのだろう。
彼女の音楽からは「これからはもう振り回されず、自分に正直に、自分が気持ちいいことだけを演るのよ」というある種の決意のようなものを感じる。
それも肩肘張ってではなく、自然体でさらっとした感じで「だって、それが当然でしょ?」って。
そういう音楽との向き合い方、酸いも甘いも心得た立ち位置が、表現の深みになる。
ひとつひとつの音やトーンの中に、確固とした意思と、傷ついてきたからこその優しさや人生への敬意が息づいている。



感触としては穏やかでも、安っぽい薄味ではなく深い味わいがある。
まろやかで、少しほろ苦くて、芳醇な香りと甘みがある。

若い頃には正直よくわからなかったこういうテイストが味わえるのだから、大人になることは悪いことばかりではない。
っていうか、若い以外には何の魅力もない小娘なんかの何百倍も魅力的で、美しく、かっこいいと思うのです。

辛い思いや悲しい経験も、そういう熟成のために必要なことだったと思えば、赦せる気もする。
それが大人の味わいなのだろう、と。









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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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