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音のパレット〈ベージュ〉

ベージュ。
明るい灰黄色。あるいはごく薄い茶色。
ベージュと呼ぶといい雰囲気だけど、日本語だと「らくだ色」だ。

この色は子供の頃は「肌色」と呼ばれていたけれど、今は使われなくなった。
人の肌の色は一様ではないからだ。
個人的にはそのことと、差別意識を助長するということは直接結びつくものではないとは思うのだけどどうなんだろう。
そういうことを言うのなら、 人種差別だけじゃなく、例えば男女差別に関しても「奸」や「妬」というようなあまり良くない意味を与えられたおんなへんの漢字や「嫁」という文字にある家制度の名残や、「女々しい」とか「姦しい」なんていう言葉も撲滅しなければいけないのではないかと。もちろん「雄々しい」も含めてだ。

まぁ、それはともかく。
ベージュという色のことと、レイシズムやフェミニズム的なことを同時に考えていたら、アニー・レノックスの顔が浮かんできてしまった。
もちろん、敬意を込めてだ。


Touch / Eurythmics

最初は少し苦手だったんですよね。
少し陰鬱な声や無機質なリズムも、そして短髪のキリッとした女性と髭面のむさくるしい男のコンビという佇まいもなんだかすごく怪しげだった。
ところが、あの不思議なリズムや無国籍風のメロディーが、一度耳につくとこびりついて離れない。いつの間にか無意識に頭の中で鳴っている。
よくよく聴いてみると、かなりエモーショナルでソウルフルだったりする。



ユーリズミックスが「肌色」っぽいのは、その「生々しさ」だろうか。
アニー・レノックスの歌には、さらけ出すように生々しさがある。
性的な部分などタブーとされるようなことすら白日の下に暴き出すようなアグレッシブさも含めて、そして誰かの温もりや肌と肌の接触を求めるような切実さを、扇情的ではなく生々しく歌う。
エモーションを覆い隠すような無機質なサウンドとエモーショナルな歌との二律背反のせめぎあい。



ベージュという言葉、そもそもはフランス語で、色の名前ではなく、染色する前の羊毛のことを指す言葉なのだそうだ。
その事を知って以来、ベージュの服を身にまとった人を見かけると「あ、羊。」と思うようになってしまった(笑)。
染色の技術が普及するまで、原始のヨーロッパ人たちはみんなこういう服をまとっていたんだろうか、とか。

原始の人間社会でも、怖れも憎しみも痛みはきっとあっただろう。
けどそれは、現代のそれとはずいぶん質的に違っていたのではないかという気がする。
エモーションを覆い隠さなければ渡ってけないクールさと、エモーションをどういう形で噴出させるかの二律背反のせめぎあいは、現代人に課せられたテーマなのだろうと思う。
どうやって上手くバランスをとっていけるか、コロナ禍の社会はそのことをよりはっきりと突き付けてくる。

ベージュ色のような、紡いだままの無漂白の羊毛のように、無垢でやわらかな心のままで過ごせるといいのだけれど、私たちの社会は染色の技術を知っていて、それはもう後戻りできるものではないのだから、上手くやっていく術を身につける以外に方法はないのだろう。





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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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