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溶ける街 透ける路

「地名」が好きだ。
土地の名前はなぜだか僕をわくわくさせてくれる。
旅行することそのものは大好きというほどでもないのに。
まだ幼稚園児だった頃、大阪万博のパンフレットを見ながら「エクアドル」だの「象牙海岸」だの「ブリティッシュ・コロンビア州」だのと知らない国や州の名前や旗を見てわくわくしていた。
小学生の頃、課外授業で天気図を書くのが好きだった。
ラジオの声にあわせて白地図に印を書き込んでいく。浦河、晴れ、氷点下15℃、北北東の風、風速5m、ウラジオストク、晴れ、氷点下18℃、北北東の風、風速15m、ハバロフスク、、、。
大人になってから、そういう地名に導かれるようにいくつかの土地へ出かけていった。


溶ける街 透ける路 / 多和田葉子

多和田葉子さんはドイツ在住の小説家で、この本は多和田さんが訪れた街の印象やその街でのエピソードが書き連ねられたもの。
シュトットガルト、フランクフルト、デュッセルドルフ。
グラーツ、クックスハーフェン、トゥールーズ、バーゼル、ハノーファー、リューネブルク。
ずらずらと並んだ土地の名前を見るだけで楽しい。



デュイスブルクという街の話が興味深かった。
この街は教科書でも習ったルール工業地帯を構成する街のひとつで、かつては重工業で栄えていたけれど、今は産業構造が転換し多くの工場が放置され廃墟となっている。
農業用地に転換することもできず、壊すのにも費用がかかるせいだろう。
そういう工場跡の廃墟に自然が戻ってきているのだそうだ。
元々は放棄された土地が荒れて勝手に木々が生い茂ったのだけど、ドイツ人はこの自然を保護したのだそう。
今ではカエルやウサギも住みつき、排水溝では魚が泳いでいる。散歩をすると足元でバッタが跳び、鳥のさえずりが聞こえる。

なんとなくおとぎ話みたいだと思った。
あるいは「未来少年コナン」や「風の谷のナウシカ」のような廃墟になった果ての未来図を思い描いた。
人類が滅亡の危機に瀕する中で、生活範囲を拡大し勢力を盛り上げていくていく生き物たちのしたたかさ。
剥き出しになった鉄骨に絡まるツタ、陽の当たらない廃墟に生い茂るシダ、窓ガラスや壁を突き破って幹や枝をたくましく伸ばしていく樹木たち、ガラクタになったコンピューターの中で動きまわる虫たち、天井の隙間で営巣する鳥たち。
やがてヨーロッパの都市という都市は大昔の森に還るんじゃないだろうか。
そんな絵が浮かんできた。

いやいや、おとぎ話だろう。
そもそもデュイスブルクなんていう街そのものが実在しないんじゃないの?と思って地図を調べたら、ちゃんとあった。



多和田さんが描く街の様子やエピソードはとても清謐で、ドキュメンタリーなのかノンフィクションなのかの境界がとても曖昧、それがとても心地よい。
想像が広がっていく隙間がたくさん残っていて、廃墟の中の木々のようにバリバリと想像の枝が伸びていく。
そんなふうにイメージの中で旅をするのが楽しいから、実際の旅行そのものはそれほど好きではないのかも知れない。







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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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