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妄想 at Used Shop

もうずいぶん前から、月に1回か2回、職場近くの中古CD店を覗くのが習慣になっている。
10年か少し前までは、欲しいCDがたくさんあって、覗きに行く度に1枚か2枚ゲットしていた。
「あ、こんなアルバムがもう中古で出てる。」
「カセットテープで散々聴いたけど、これCDで持ってないんだよな。」
「おっ、この人、昔けっこう好きだったんだよな。」
そうやっていつの間にか、我が家のCDラックの魔窟は超魔窟と化していったのだ。

それがだんだん買わなくなったのは、例えば、持っていないと思って買ったら既に所有していた、とか、懐かしさで喜んで買ったものの結局はまるで聴かなかったとか、そういうことがたびたび起こるようになってからだ。
あるいは、興味はあったものの聴く機会がたまたまなかったアーティストだと勇んで買ったものの、聴いてみるとすでに既視感(既聴感?)のある音楽だったことが続くようになってからだ。

「あー、シンプリーレッド。アルバム持ってなかったよな。いや?あったっけ?うーん、でもどーせベスト盤で事足りてるしなー。」
「アヴェレージ・ホワイト・バンドなぁー、興味はあるんだけど、、、聴くかな?」
「シャム69かー、あぁ、ジェネレーションXも。うーん、昔は興味あったけど、多分聴くことないよなぁ。」

・・・そうやって一度は手に取ったアルバムを棚に戻すことが多くなった。
そもそもマニアやコレクターじゃないし、希少品を所有することに対する欲望はなかった。
ただ、新しく刺激的な音楽に出会いたかった。
けど、どんなアーティストやどんなアルバムを聴いても、10代後半や20代前半に聴いたような刺激を得ることがとても難しくなってしまったのだ。
「俺も、出来上がってきっちゃったんだろうな。」
そう思いながら、昔から大好きだったアルバムばかり聴くようになっていったのが40代の半ば差し掛かった頃くらいだったろうか。

それでも、中古CD店に足を運ぶ習慣だけは変わらなかった。1ヶ月とか2ヶ月近く足を運ばないとだんだんムズムズしてくるのだ。
「あ、こうしている間に、ほしかったレCDが入荷しているかもしれない。」
そんなそわそわ感が押し寄せてくる。
それで時間を作って足を運ぶ。
最初は「あ、あれも。これも。」と手に取るのだけど、なんとなく途中から虚しくなってきて結局何も買わないで帰るのだ。
物色するだけで満足する、といえばそうだが、なぜか束の間の高揚のあとに、「どうせ知ってる音だろうな」とか「聴かないんだろ、どうせ」なんて気持ちがむくむくと立ち上がってしまうのだ。
ただ、物色している最中はとても幸せなのも確かなのだ。



その日は珍しく早めに仕事が切り上がった。
予定されていた会議が延期になったり、やらなきゃと思っていた仕事をたまたま同僚が先に済ませてくれていた。
ふっと手持ちぶさたになって、ふらっと2ヶ月ぶりくらいで中古CD店に立ち寄ったのだ。
いつものように、洋盤のAから順に棚をパトロールする。
Aの欄でいきなりアーサー・コンレイの「Sweet Soul Music」と「Shake,Rattle and Roll」が並んでいて色めきたった。
Bにはバーバラ・リンにブッカーT&MGズ、Cにはクラレンス・リードとクリス・ケナー。おぉっ、なんかすごいぞ。
ちょうど10年くらい前だろうか。アトランティック・レーベルの60年代R&Bのアルバムが廉価で再発されたことがあった。そのラインナップが大放出されているようだ。
クローヴァーズにコースターズ、スピナーズにスイートインスピレーションズ、ドン・コヴェイにエディ・フロイド、カーラ・トーマスにジョニー・テイラー。
すごいな、これだけあるとかえって目移りして絞れないな。どーしたもんだろうか。
誰かがまとめて売ったのは疑いの余地がない。
誰が売ったんだろう。
そう思ったときに、ふと、ゾクッとして妙な気配を感じたのだ。

あ、この人、亡くなったな。

大量のコレクションが出回るとすれば、何らかの理由で突然飽きたか、当座の金に困っての金策か、あとは故人の所有物の整理だ。
理由はよくわからないけれど、なぜか「亡くなった」という直感が降りてきたのだ。
どんな人だったんだろうか。
歳は50代か、60代か、それとももう少し若いのか。
「お父さんが亡くなってもう三回忌、そろそろ遺品を整理しないと。」
「いっぱいCD集めてたけど、そもそも聴くことないもんね。」
「中古の専門店にでも売りにいけばいいんじゃない?」
そんな遺族の会話があったに違いない。
どんな人だったんだろうか。
どこかでご縁があれば、友達になれた人かもしれない。
打算も下心もなにもなく、ただただ好きな音楽について言葉を交わせる人っていいよな。

・・・ただの妄想です。
でも、その人のために何か一枚は買うべきだろうと思った。
形見分けじゃないけど、そういう感じ。
あるいは妄想をリアルにするための。


いろいろ迷った挙げ句、2枚のCDを手に入れた。

一枚は、カーティス・メイフィールドが脱退してからのインプレッションズのアルバム“Finaly Got Myself Together”。



初期からのメンバー、サム・グッデンとフレッド・キャッシュが、レジー・トリアンとラルフ・ジョンソンというふたりのリードシンガーを迎えて録音した、新生インプレッションズの一作目だと解説書に書いてあった。
ゴスペルとファンクとソウルが融けあっているクールなレコードだった。



もうひとつは、ドン・コヴェイがジェファーソン・レモン・ブルース・バンドというバンドを率いて録音したアルバム“The House Of Blue Lights”。



ジミー・リードみたいなロッキン・ブルースを中心に、ドン・コヴェイらしいポップさとアクの強さがかっこいい。



たまにはこうやって、何かに導かれるように音楽に出会うのも悪くない。

亡くなってしまったソウル・マニアに敬意を込めて。

いや、妄想ですが。。。









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コメント

[C3394]

BachBachさん、こんばんはー。
最初は5、6枚手に取ったんですが、あの時代のソウルのアルバムはシングル数曲以外は水増し、寄せ集めの傾向が強くて、結局シングル曲ばっかり聴いてた、、、みたいなことが経験上多々あったのでやめてしまいました。
カーティス・メイフィールドのいないインプレッションズは70年代っぽいクールなグルーヴがよかったです。

買い集めたレコードから見える人となり、確かにあります。
自分の場合どうなんだろ、とか思っちゃいますね。
  • 2020-09-09 00:53
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3393] いい趣味だなあ

買い集めたレコードって、人となりが出ますよね。ブッカーTにスピナーズ、エディ・フロイド、ジョニー・テイラー…たしかに友達になりたい人ですね。そして、カーティス・メイフィールドのいないインプレッションズを買ってくるgolden blueさんとブログ友達になれてよかったです。
ドン・コヴェイという方は知りませんでしたが、ジャケットがいいですね!これを現物で見たら僕も買っちゃいそうです(^^)。

[C3392]

colさん、おはよーございます。
やっぱりそうでしょうか。
最初7,8枚手に取って、いや、そんなに聴かないよなと思ってやめたのですが。
気になったものは配信でいくらでも聴けてしまうと、所有して聴くことの意味合いも変わってきつつありますね。
  • 2020-09-07 07:53
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3391] Atlantic

goldenblueさん


Atlanticのシリーズを買った人が手放すことは考えにくいですね、1,2枚ならともかく


私も同じ状況なら同じ想像をして、何枚か買ったと思います

今では落ち着いてアルバムを通して聴く機会も減ってしまいましたが、何とか維持したいものですね

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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