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不時着する流星たち

今日も雨。
この7月で雨が降らなかったのは、先週末からの数日くらいではなかったか。
体力的には酷暑よりましとはいえ、雨降りは気分を重くする。
なんとなくスッキリしなくて、いくら眠ってもまだまだいくらでも眠れそうなくらい眠い。そのくせどれだけ眠っても疲れがとれた気がしない。
日照時間が減ると鬱の症状が悪化するとの関連性が指摘されているらしいけれど、だとしたら今年はずいぶんとうつ病が増えたのではないだろうか。
ステイホームと長梅雨。



雨の音が鳴り止まない夜には、静かに読書をするのがいい。
小川洋子さんの短編集は陰鬱な雨の日によく似合う。
右往左往ぶりが滑稽なほどの人の世からするりと抜け出して、物語の世界へGo To トラベルだ。


不時着する流星たち / 小川洋子

静謐な文体、淡々とした描写で描き出される不思議な世界。
現実の中の物語の中に、うっすらと忍びこんでくる奇妙な異世界にぞわぞわとしたものを感じながら読みすすんでいくうちに、いつの間にか引き返すことができない異世界の真ん中にぽつんと放り出されていることに気づく。
一瞬のパニック。
けれどその異世界は、おどろおどろしくグロテスクな描写であっても、なぜかとても静かで淡々としている。
目の前に現れたえぐりとられた目玉のような異世界をただ呆然と眺めていることが不思議なほどに清々しい気分がするのはなぜなんだろうと思う。

裁縫箱にがらくたを詰めこんでいる十七才も歳の離れた母の再婚相手の連れ子である姉。
散歩同盟会員。
孤島の同志を探す少女。
あたかも誰かがポストに入れる前にうっかり落としてしまったかのように手紙をこっそり置いていく実験。
歩幅で測量を繰り返す盲目の祖父。
葬儀で死者を送り出すお見送り幼児。
四人だけの秘密を共有する少女たち。
作業着でぐるぐる巻きにされた文鳥。
秘密の呼び名で呼ばれる十三人きょうだいの叔父さん。

不思議な世界の不思議な登場人物たちが、雨の匂いがする空気の中に溶け込んでいく。








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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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