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音のパレット〈グレイ〉

ボブ・ディランの歌の空は、いつも曇り空だ。

僕はディランに関しては全然聴き込んでいないシロートリスナーなので、ディランについて何かを語れるほど詳しくはない。
ノーベル文学賞をもらうほど歌詞が素晴らしいと言われているけれど、それも正直ピンと来ない。
だけど「Bring It Aii Back Home」「Highway 61 Revisited」「Blonde On Blonde」あたりのアルバムに収められた曲のかっこよさはわかる。

投げつけるようにぼやくように吐き出されるしゃがれ声と、むき出しのコンクリートのようにざらざらして、聴き流すことを許さないゴツゴツとしたサウンド。
その歌とサウンドから聴こえてくる景色は、いつも曇り空だ。
スッキリしない曇り空。
蒸し暑さにじっとりと噴き出す汗。
色に例えるならば、グレイ。


Highway 61 Revisited / Bob Dylan

ボブ・ディランを聴いて心が晴れることはない。
爽やかでスカッと晴れ晴れした気分になることはない。
そんな人がいるとも思えない。
それでもなぜか、ボブ・ディランの声は、人の心を捕らえて離さない。
どこか心の襞のどこかの隙間に、ボブ・ディランの声は貼り付いてしまって剥がれなくなってしまう。
それはなぜなんだろう。

スカッと爽やかに、いろんなことをザックザクと割りきってとにかく前へ前へとすすんでいければ快適なのに、ディランの声はグルグルと同じ場所でずっと渦を巻いて、停滞している前線のように雨を降らす。
ときにバサバサと、ときにうじうじと。



グレイという色にある、どっちつかず感。
白とも黒とも割りきれないモヤモヤ感。
いっそ白か黒かはっきりすれば判りやすいのに。

でも、実際のところ人は誰も、本当はグレイの曖昧さを求めているのかもしれない。
白でも黒でもないグレイの曖昧さのなかをうろうろすることは、実は居心地のいいことなのかもしれない。
割りきることだけが美徳ではない。
割りきれないモヤモヤの中に浮かびあがる感情こそが、生きていることの本質なのかもしれない。

ディランはぶっきらぼうな声で「白でも黒でもどっちでもいい。正しい答なんかどこにもない。あんたが考えてあんたが選ぶことだ。」と歌いかけてくる。










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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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