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日のあたる白い壁

江國香織さんが絵画について書いたエッセイ集「日のあたる白い壁」に、友人とのこんなやりとりが紹介されている。

「この美術館にあるなかで、どれでも好きな絵を一枚もらえるとしたらどれがほしい?
ただし絶対飾らなきゃいけないんだ。売るとか、財産として所有するとかそういうのじゃなくてね。
まっ白い壁の、広いきれいな家に住んだら、とかいうのも駄目で、いま住んでいる家に、必ず飾らなきゃいけない。」

いま住んでいる家に飾る、という条件で美術館の絵をみると、欲しいものはまず見つからない。好きな絵ならたくさんあるのに。


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日のあたる白い壁 / 江國香織

絵画を家に飾る、ということを考えたことがなかったのでこの状況設定はちょっと目からウロコだった。
そうか、どれかひとつの絵を家に飾るとしたら・・・少し考えてみて、それはとても容易なことではないと気づく。

毎日毎日同じ絵と対峙すること。
それは単に「絵を選ぶ」ということに留まらず、生き方や日々の感情の在り方を選ぶことに等しいのではないかと思う。

例えばゴッホの絵。
すごいとは思うけど、毎日あの絵を観ていたらきっと気が滅入る。
毎日ジミ・ヘンドリックスやドアーズを聴いているとおかしくなっちゃいそうなのと同じだ。
ムンクにしてもピカソにしてもその辺りは同じ。
じゃあ逆にもっとポップな絵だとどうなんだろう?
ラッセン?ヒロ・ヤマガタ?
鈴木英人とか永井博?
いやぁ、ああいうのはキャラに合わないな(笑)。
明るくキラキラした世界の表側よりも、一本路地裏に入った景色の方が僕としては興味深いし、ああいう薄っぺらい明るさに便乗して自分をイケてる風に装うのは好きじゃない。
どっちかっていうと、風景画とか静物画とか、落ち着いた絵の方が良さそうかな。
イケイケにテンションがあがったり、宗教画のように神妙な気持ちになるものより、日常を描いたもののほうがいい。観るたびに心が穏やかになるようなものの方がいい。

例えば、トム・ペティのアルバムを飾っていたウィンスロー・ホーマーという画家。

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19世紀のアメリカを代表する写実主義の画家で、働く農民や漁師の絵を得意とした。力強くもどこか哀愁のあるタッチにブルースを感じる。

あるいは、ブルース・ホーンズビーがアルバムのジャケットに使っていたエドワード・ホッパーという人。
この人もアメリカの画家で、1930~40年代、ジャズの時代に活動していた画家だ。
風景の中に物語が浮かんでくるような作風で、はっきりした輪郭やクリアーな色づかいがいい。

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人物を描かずに、そこに人の息づかいや想いが浮かび上がってくるような絵って素敵だと思う。

人物がくっきりと描かれた絵は、絵の中に物語がありすぎて、それはもはや情念のようなもので、家に飾って毎日向き合うのはきっと辛いような気がする。
では、風景画や静物画ならいいかというとそうとも言えない。
そもそも花の絵を飾るくらいなら本物の花を飾ったほうがいいや、果物にしたってそうだ、なんてつい思ってしまったりするから、僕は本質的に「絵画」というものを理解できていないのだろうと思う。

だいたい、すらすらと作品と人名が出てくるほど、美術のことを知らないのですよね。
ポピュラー音楽ならある程度、時代背景や歴史も含めて学んできたので、好き嫌いではない選択ができるのだけれど、美術のことはバラバラに雰囲気で入り口だけ知っている程度。ジャーニーとカルチャー・クラブとビートルズを同列に並べて「いい曲ね。」なんて言っているレベル。もっと知ってみたいとは思っているのだけれど、いい感じの入り口が見つからないまま城壁の外側をうろうろしているようだ。
絵なんて、考えるより感じるべきものとわかっていても、どこか理論的なとっかかりがほしくなるのですよね。画家の生まれた時代とか土地とか、そういうことが知りたくなる。
どっちかっていうと、絵画よりも世界地図でも飾っているほうがしっくり来るのかも知れない。



蛇足ながら、本の紹介と感想を。
この本は、江國香織さんが古今東西の27人の画家の作品をとりあげ、自由に想いを巡らせたエッセイ集。
ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、マネといった有名な画家から、初めてきく人まで。
絵のことを言葉で書くということはとても難しいことだけど、江國さんの繊細かつ豪胆な発想と、「絵の気持ち」の感じ方に感銘。
そうか、「絵」ってのは、結局のところは気持ちの在り様の具象化なんだよな。
そんなことを思いながら、ひとつひとつの絵に込められた感情を想像しながら読了しました。





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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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