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世界史を大きく動かした植物

消費税が上がって10日余り。
どうも税金が10%になったという実感が薄い。
というのも、ろくに買い物をしていないからだ。
元々物欲はあんまりあるほうじゃない。
身につけるものや使うものは機能性重視、外食もそんなにしないし、唯一の散財場所だったCDもずいぶん買わなくなった。
10%に上がった買い物をしたのは今のところ缶ビールだけだな。今日、買いだめが切れて490円に上がったタバコを買って、ちょっとだけ増税を実感した次第。
っていうかそもそも、日常生活の買い物のほとんどはタバコとビールだ(笑)。

タバコとビール。
これ、どっちも元々は植物ですね。
都会で暮らしていると、植物の存在というのはほとんど気にすることがないけれど、実は私たちの暮らしは植物なしでは成り立たない。
衣食住含めて、暮らしの中のほとんどのものが植物からできている。
それ以上に、単にモノとして依存しているよりはるかに、社会の根幹から植物が関わっているのだそうだ。つまりは、植物との関係の中で人間の社会が構築されているということ。
そのことを改めて学んだのが、図書館でなんとなく借りてきたこの本。
植物との関わりが、文化のみならず社会や歴史を大きく変えてきた、文明すら植物なしでは発生しえなかったという事例がたくさん紹介されていた。

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世界史を大きく動かした植物 / 稲垣栄洋

そもそも人間が今のような社会を作り出したのは、農耕をするようになったことから始まるのだそうだ。
狩猟採集だけで暮らしていた時代、今も多くの動物がそうであるように人間は「蓄える」ことができなかった。
一日の労力のほとんどは食べ物を探すことに費やされる。食べ物が得られる日もあれば得られない日もあっただろう。
人間の数は、その周りの自然がもたらす恵みによって左右されていた。
やがて人間は火を使うことを覚える。
火を使うことで、麦や米など栄養価の高いイネ科の植物の種子を煮てやわらくしたり粉に挽いて焼いたりすることができるようになった。
これを育てれば、狩猟採集生活のように移動しなくても定住していても安定して食糧が得られるようになった。
ただし農耕というのは重労働なので、狩猟採集のように家族単位でできることには限界がある。そこで人々は家族親族あるいは近くに住むものたちががまとまって協力しあうようになっていった。
これが地域社会や村の始まるきっかけとなったのだそうだ。
麦や米は種なので保存が効く。
保存できることで「富を蓄える」ことや「価値を交換する」ことが始まった。
これが経済の始まりであり、やがて持つものと持たざるものが生まれ貧富の差が生まれて、権力や統治が始まっていったのだ。

学校で習った世界史なんかではさらっと「農耕が始まる」「ムラやクニができる」と書かれているけれど、そこには植物の存在が大きくあったわけですね。
そりゃあ確かにそうでしょう。
食い物、つまりは日々の糧こそが生きていく上で一番大切なことだもんね。
もし人間が麦や米の食べ方を発見しなければ、今も狩猟採集だけで暮らしていたのかもしれません。

世界史に大きな影響を及ぼしたと紹介されているのは、麦、米の他には茶、綿、砂糖といった産業発展の元になった作物や、じゃがいも、とうもろこし、大豆などなど。
そんな中でも、特に大きなきっかけとなったのは胡椒。
今のような西欧中心の社会が始まるきっかけになったのは胡椒がきっかけなのだそうだ。
インドや東南アジアでしか採れない胡椒は当時のヨーロッパ人にとっては肉を保存しおいしく食べるための魔法の食材だったけれど、イスラムの商人を通じてしか入手できず非常に高価だった。
なんとか自力で入手できないかとアフリカ周りの航路を開拓していったのがヨーロッパの世界進出の第一歩だった、というわけ。
その延長戦上にアメリカ大陸の発見がある。
唐辛子は英語ではレッド・ペッパーというけれど、胡椒とはまるで植生の違う唐辛子にペッパーの名がついているのは、コロンブスが「胡椒の一種だ」と言い張ったからなのだそう。そもそも胡椒を見つけに船を調達したわけだから、スポンサーに対してなんとしても「胡椒を見つけた」ということにしたかったのでしょう。
ともあれ、ヨーロッパ人がアメリカにたどり着かなければ、じゃがいも、トマト、とうもろこし、唐辛子なんかが世界中に広まることはなかったのだ。
綿が広まらなければ産業革命もアフリカ人の奴隷売買もなかった。じゃがいもがヨーロッパに普及しなければアイルランドは飢饉にならずアメリカへ大量の移民が渡ることはなかった。トマトがヨーロッパに普及しなければ、イタリアのナポリタンはなかった。唐辛子がアジアに伝播しなければ韓国のキムチは辛くはなかった。
そしてタバコが普及しなければ、僕のストレスはもっと強かったのかも(笑)。

タバコや胡椒や唐辛子は、不思議なものだとつくづく思う。
果物を鳥や哺乳類がおいしいと感じるのは理解できるのですよ。
果物はそもそも、種を遠くへ運んでもらうご褒美として鳥や哺乳類が好きな甘味を植物が敢えて甘くしたものなのだから、鳥や哺乳類が気に入るのはある意味植物の作戦どおり。
ところが、タバコの葉にあるニコチンや胡椒のピペリン、唐辛子のカプサイシンは、生育途中の葉を食べられないようにとか、実がちゃんと実るまでは害虫に食べられないようにということで植物が敢えて仕込んだ毒素なのですよね。
それこそ、犬も食わない。
にも関わらず、人間はこういうものに快楽を感じるのですよね。これって植物側からすれば想定外の事態のはずなんだけど、実際のところはどうなんだろう。
採られないためのものが、逆にその植物の栽培の動機になる。結果としては植物側としては人間を媒介に繁殖を続けているわけで、植物のDNA的にはこれはこれでアリなんだろうか。それともやがて、人間に良いように扱われないための、ニコチンのないタバコやカプサイシンのない唐辛子なんていう進化を企てているのだろうか?


なんて、相変わらずくだらないことばっかり考えています(笑)。
とりあえず今日も、植物が仕込んだ毒素をありがたくいただきながら、せっせと税金を追加して払う。
植物の毒素のおかげで、っていうか、毒も薬も元々は同じで人間にどう作用するかで便宜上分けられているのに過ぎないので僕にとっては薬なんだけど、まぁとにかく植物のおかげで今日もなんとかやり過ごせている次第であります。


また大きな台風が来るようですね。
せっかく実った稲穂が根こそぎ倒されないとありがたいのですが、自然の流れの中では人間は振り回されるしかないのかもしれません。
大きな被害があったときこそ、せっせと払った税金を使ってくれてもいのに、偉い人たちは蓄財に一生懸命。
これも元々は植物との関係から始まった社会構造故か。。。







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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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