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嵐の夜の

台風の夜。
向かいの疎水沿いにずらっと並んだ木々が枝と葉っぱをさわさわと揺らしている。
やがてシャワーのような雨。
一定のボリュームで一定の量を降らす雨の音は疲れた体に心地よい。
夜11時。
やたらとはしゃいでいるニュース番組の台風報道。
画面の枠の下段ではテロップが延々と流れている。JR山陽新幹線 小倉~新大阪 運休、ANA300便を運休、避難勧告 奈良県黒滝村 全域、十津川村 全域・・・画面の左側では日本列島の地図と台風の経路、現在地は松江市沖あたりか。

ふとんに横になって、本を読む。
雨のシャワーのリズムが妙に落ち着く。
いくつかページをすすめたところで、耳元を不愉快な音が横切った。
奴だ。
ほとんど外出もしていないのに、どこから紛れこんだのか。
一度めは無視を決め込んで、本の世界に戻る。
プーーーーン。
二度め。
こうなってしまってはもはや、本の世界に戻ることはできない。
あきらめよう。
こういうときの対処法なら、今までいくつも経験済みだ。

まずは、呼吸を整えて気配を鎮める。
敢えて無防備を装うのだ。
静かに、寝息のように、心を落ち着かせて横になる。
きっと奴はもう一度やってくる。
スー、スー、スー
スー、スー、スー

プーーーーン

来た。

まだ慌てない。
最短距離まで近づいてくるまで堪えるのだ。

プーーーーン

今だ。

カエルの舌が羽虫を捉えるあのイメージで素早く左手を宙に飛ばす。
見失ったか?
いや、成功だ。
差し出した手のひらの中で引っ掛かったモスキート。
よっし、留めだ、パチン!

そこには赤黒い血。
血を吸ってお腹いっぱいでフラフラだから、やられちゃうんだよな。
どうせ吸われてるなら今更君の命を奪うことはなかったね、ごめんなさい。
でも、俺だって生きていくために身を守らなくっちゃいけない。そこはガチでぶつかるしかなかったんだよ。

反省と後悔と、でも割りきって前へすすんでいくしかないんだ、っていう覚悟と。
そんな嵐の夜でした。


ちなみに、読んでいたのは、池澤夏樹さんの書評集「嵐の夜の読者」でした。
池澤さんならではの視点で描かれた、アカデミックからほんわかまで、非常に興味深い書評集です。

20190817002725bd0.jpg



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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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