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やさしさ

午前8時40分、会社近く。
駅の改札を出て階段を降りたら。
路上になんだか、ぬいぐるみみたいなものが転がっていた。
大きさは掌ほど。
青と白のもけもけに黄色いくちばし。
ドナルド・ダックのぬいぐるみのストラップだった。
誰かに踏まれたのか、少しひしゃげて汚れている。
一旦立ち去ろうとしてから、ふと立ち止まった僕は、引き返して、ドナルド君を拾い上げ、汚れを少し払い、駅の建物の壁に立て掛けた。
不慮の事故に遇って瀕死の重体っぽく見えたドナルド君は、壁に立て掛けると、ちょっと誰かを待っているような感じになった。
「きっと持ち主が探しに来るから、そこで待ってるといいよ。」
心の中でそう呟いて、僕は会社への道を急いだ。




ええ。
優しい人だとよく言われます。
ハイ。
実際、優しいと思う。

でも、それは本当の優しさなのか、ともうひとりの僕。
「そりゃ、路上に転がってるよりは、壁に立て掛けたほうがいくらかはいいだろう。
でも、本当に落とし主のことを思うのならば、どうして遺失物拾得所まで行かなかった?」

いや、だって、出勤時間も迫ってたし。

「そやな。お前の優しさなんて、所詮その程度。結果に責任を持たない、自分勝手なやさしさ。自分都合でできる範囲のことだけやって、独善的にいい気分になってるだけなんだよ。」

・・・

そうなんだろうな。
僕の優しさなんてその程度。
はっきり言えば、落とし主のことよりも、あのままドナルド君を路上に放置したときに、あとで自分が嫌な気分になるのが嫌だったんだ。

あの日、そのあと雨が降った。
夜になって仕事を終えたあとに同じ場所に戻ったとき、泥まみれでぐしゃぐしゃになったドナルド君を見てしまうのが嫌だったんだ。
ひょっとしたら大切な人にもらって離さずに持ち歩いていた大事なものだったんじゃないか、失くした持ち主は今にも泣きそうになっているんじゃないか。
そういうことを想像しだすと止まらなくある。持ち主が見つけたときには、無惨な姿、、、あぁ。
こんなことになるんなら、あのとき拾ってあげるんだった。
あのとき拾ってあげるんだった。

・・・そう思うのが嫌だったんだ。

ただそれだけ。
自分が嫌な思いをしたくないから、優しいふりをしただけ。

清志郎が歌っている。

♪誰ぇもー、やーさしくなんかなーい
思い違いー、ひとりよがりのー

そう、優しくなんかない。
自分の気持ちが快い方へ行動しただけ。

でもね。
それでもいいんじゃないのか、と最近は思うようにしている。
それでいいんじゃないか、と。

自分の気持ちが快い方へ行動した結果として、誰かも快くなってくれるなら、誰かの気持ちが少しでも楽になってくれるなら、それが何の悪いことであるだろう。
ないものねだりのわがままで、誰かがああしてくれないこうしてくれないと駄々をこねて結果的には誰かを不愉快にするよりは、例え自己満足だったとしても優しい方がいいに決まってる。

自分を優しい人だとは思わない。
優しさを誰かに押し付けたり恩を着せたり、せっかく優しくしてやったのにどうして優しくしてくれないんだなんて憤ったりはしない。
そもそも誰にだって優しいわけじゃないし。
ただ自分が優しくしたいからする。
辛辣な言葉で誰かを傷つける自分より、優しい自分の方が好きなんだよ。
優しい人ではなく、優しくするのが好きな人。
それでいいんだと思うんだ。

「ま、それをわかった上でそうしたいんならそうすればいい。
そうでありたい自分を思い描いていていれば、そのうち自然にそうなるもんだよ。」
ともうひとりの僕。

そやろ。
そういうことにしておいてくれ。



夜7時半。
小雨の降る中、朝と同じ場所に戻った。
ドナルド君は居なかった。
どうなったのかは知らない。
僕は僕なりのハッピーエンドを思い描いておくことにする。
それでいいんだ。




あなたのやさしさを俺は何に例えよう / エレファントカシマシ










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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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