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意訳 Xmas in February

Lou Reed “Xmas in February” 意訳




彼は、路上でボードを掲げてしゃがみこんでいる。
「どうか、ベトナムから故郷へ送り届けてください」
と書かれたボードを、人々は知らん顔して通りすぎる。
屈辱にまみれた戦争のことなど、誰も思い出したくはない。




彼の名前をサムとしよう。
彼はレストランの厨房のアルバイトだった。
その暮らしはギリギリで爪に火を点すような毎日だった。
幼い頃に両親を亡くし、親戚の家で厄介者のように育てられ、18になると追われるように都会へ出た。
闇市まがいのブラック・マーケットや、土木工事の肉体労働者だらけの町。
元々は製鉄工場があって羽振りがよかった町だったけれど、その工場は不景気の煽りを受けて閉鎖されてしまったのだ。
そんなときにサムの目に留まったのが、軍隊の求人広告だった。
“I WANT YOU!JOIN THE U.S ARMY!”
衣食住はすべて保証された上で、月1000ドル~2000ドル。一定期間以上従軍すれば、退役後には恩給もある。
「何しろ国のために命をかけて勤めるんだ。これまで小馬鹿にしてきた奴らだって、きっと態度を変えるさ。」
サムはそう思った。
「そうすれば、きっと、2月のクリスマスみたいな思いをしなくても済むはずだ。」
と。

2月にクリスマス
六日のあやめ、十日の菊
火事のあとの火の用心
もはや手遅れで、何の価値もない







サムはジャングルで身を伏せていた。
オレンジ剤がまるでマーマレードのように空に塗り広げられた。
エージェント・オレンジ、それが枯葉剤と呼ばれる猛毒だったことは、現場の兵士たちは知らされていなかったという。
アジアん坊たちは狂暴で怖いもの知らずだった。
宿営地に手榴弾を投げ込み、重機砲をところかまわずぶっぱなしてくる。
ジュークボックスから鳴り響いていたジミ・ヘンドリックスのギターのような轟音が頭のなかでこだまする。
不信心でろくに礼拝にも行かなかったけれど、このときばかりは「神よ!」と祈るしかなかった。ただひたすらに。
アジアの国の共産主義化を防ぐなんていう大義名分は嘘っぱちだった。
金持ちたちと軍人たちが私利私欲にまみれて東洋の国まで覇権を拡大しようとしたツケを、ここで俺たちが支払わされることになってしまうのか。

2月のクリスマス。






サムはなんとかという国境の町での戦闘で片腕を失った。
指は誰かの収穫物になった。
阿片をやっていなかっったらきっと、痛みが収まることはなかっただろう。
友人たちの半数は、表面に名前が印刷された黒い箱に梱包されて故郷へ送られた。

2月のクリスマス。




サムは捕らえられ、数ヵ月を捕虜として過ごした。
そして祖国へ送還された。
サムが不在の間に、妻は別の男といい仲になり、子供を連れて出ていった。
サムに帰る場所はなかった。
片腕を失った男に仕事はなく、毎日は空っぽになった。
約束されていた恩給はすずめの涙。

彼は今、路上でボードを掲げてしゃがみこんでいる。
「どうか、ベトナムから故郷へ送り届けてください」
すでに故郷にいるにもかかわらず。
人々はそんな彼を怪訝な顔をして通りすぎる。
屈辱にまみれた戦争のことなど、誰も思い出したくはない。

2月のクリスマスすら、彼にはやってこなかった。




###############################################

3分にも満たない弾き語りのポエトリー・リーディングのような“Xmas in February”。
「2月のクリスマス」というキーワードが、サムと呼ばれた主人公の虚しさを強く印象づける。
この言葉の解釈が「もはや手遅れで何の価値もない」という意味で正しいのかは自信がないのだけれど。

この物語が伝えるものは、戦争は人が死ぬから嫌だ、というだけではなくって、生き残った人間にも深く傷を負わせるものなのだ、ということ。
貧しくて立場の弱い人間から順にひどい目に遭う。

戦地に赴きもしない偉い人の指示で、人生を狂わされたくはない。
誰の人生も狂わされるべきではない。
じゃあどうすれば、というと、口ごもってしまうのだけれど、その口ごもってしまうすっきりしない何かを、簡単に割りきらずに、大切にしたいと思います。


201902252038378b3.jpg
New York / Lou Reed






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コメント

[C3277]

Bach Bachさん、こんばんはー。
このアルバムは、4ピースでひたすらシンプルに、ただ音を鳴らしたかった、というような音ですね。曲もシンプル。
物語性を立てるために敢えてこうした、っていう感じもあります。
淡々と紡がれる物語なだけに、深い余韻が残ります。
  • 2019-02-26 20:56
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3276] このアルバム

音楽自体はあまり好きでないのですが、詞が短編小説みたいでいいですよね。この曲も好きだし、「Great Adventure」という曲も好きです。「子供を10人作って、森の中で自由に育てるのもいい」みたいな言葉に、奥さんが「ルー、それは大冒険よ」みたいに答えるものです。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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