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意訳 The Night They Drove Old Dixie Down

The Band “The Night They Drove Old Dixie Down” 意訳



1860年のアメリカ。
その年の暮れに、保護貿易と奴隷制廃止を訴えたエイブラハム・リンカーンが連邦の大統領に選ばれた。
これに反発する南部の諸州は次々と連邦からの離脱を表明し、ジェファーソン・デイヴィスを大統領にしてアメリカ連合国が結成された。
最初の首都はアラバマ州モンゴメリー、ヴァージニア州が連合国に参加してからリッチモンドに首都を遷した。

当時、着々と工業化を推進していく北部と、プランテーションで綿花やタバコを作ってヨーロッパへ輸出していた南部の格差はどんどん広がるばかりだった。
南部の人々は、ヨーロッパとの自由貿易で自分たちが稼いだ金が税金として北部に吸い上げられ北部の工業化に使われることへの不満を抱いていた。
一方の北部は関税をあげて自国の商工業を保護することを目論んでいたし、南部が奴隷制を北部へ拡大させることによって労働者の職が奪われることを懸念していた。
それらの対立は収まることはなく、4月のノース・カロライナでのひとつの要塞を巡る小競り合いから戦争が始まったのだ。
戦いは南部諸州のあちらこちらで展開された。
一進一退を繰り広げつつ、徐々に連合国軍は追い詰められていった。

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わたしはヴァージル・ケイン。
ブルーリッジ山脈の東麓、ヴァージニア州のダンヴィルから、リッチモンドまで敷かれていた兵站鉄道部隊に配属させられた。
64年の暮れにストーンマンの騎兵隊がやってきて、それらを壊滅的に破壊するまでは。
その冬、わたしたちは飢え、生きていくのがやっとの有り様だった。
春になって、アポマトックス方面作戦によってリッチモンドが陥落。
それが5月10日だ。
連合国は首都をダンヴィルに遷して抵抗を続けたが、数日後には力尽きた。

奴らが南部を陥落させた夜。
奴らは勝利の鐘を鳴らしていた。
奴らが南部を陥落させた夜。
奴らは行く先々で歌っていた。
La, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la

わたしと妻はテネシーに帰った。
今じゃ木こりを生業としている。
給料は決して高くはないけれど、それはどうでもいい。
木こりであることにはそこそこ満足しているんだ。
一度、テネシーに敗軍の将、ロバート・E・リー将軍がやってきたことがあったっけ。
「早くおいでよ、将軍よ。」って妻は叫んでいたけれど、それも今やどうでもいいことだ。

奴らは、奴らが必要な分だけ持ち去って、要らないものは捨てていった。
でも、一番大切なものだけは持っていくことはできなかったんだ。

奴らが南部を陥落させた夜。
奴らは勝利の鐘を鳴らしていた。
奴らが南部を陥落させた夜。
奴らは行く先々で歌っていた。
La, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la

昔、父親がそうしていたように、
わたしはこの土地で働いていくだろう。
反乱軍に入った兄弟のように。
弟はまだたった18才だった。
勇敢で誇り高い男だったが、北のヤンキーたちが墓場に横たわらせてしまった。

この足を捕らえるぬかるみにかけて誓うよ。
敗北しっぱなしじゃ浮かばれない。

奴らが南部を陥落させた夜。
奴らは勝利の鐘を鳴らしていた。
奴らが南部を陥落させた夜。
奴らは行く先々で歌っていた。
La, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la, la

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ザ・バンドの“The Night They Drove Old Dixie Down”で歌われているのは、連合国軍に従軍したある男の回想録だ。
北部軍が持ち去ることができなかったもの。
それは人としてのプライドだったのだろうか。
歌の中で多くは語られないけれど、その行間からは、失われた祖国への悲しみや北部人への恨みのようなものを越えた、運命への諦念のようなものが感じられる。
人の生き方は時代に翻弄される。
けれど、人としての誇りまでは奪われはしない、という決意。

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The Band / The Band


「南北戦争 」と呼ばれた戦争があったことは教科書でも習ったけれど、それがどういう目的を持って起こされた戦いだったのか、その結果どういうことが起きたのか。そんなことはこの歌を訳してみるまでまるで興味を持ったことがなかった。
音楽というのは、時にはそういうことも表現することができるんだな、というのが訳してみての正直な感想。
新聞で読んだり教科書で習うのとはまるで違う角度から、そのときに生きた人の感情を、心のひだまで、物語だけではなく音楽として表現することができる。
好きだよ、愛してる、ってだけの歌も好きなんだけど、こういうことを音楽として表現できる懐の深さっていうのは、僕がいまだに音楽に夢中になってしまう理由のひとつなんだろうと思う。





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コメント

[C3275]

波野井さn、こんばんはー。
ザ・バンドの歌詞はなかなか難解で、歌われている物語の背景まで知らないとなかなかうまく理解できないのですが。
南北戦争の歌、日本でなら戊辰戦争とか西南戦争のことを歌うようなものですが、そこに描かれた人間の物語、深いなぁと思います。
  • 2019-02-24 18:38
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3274]

おはようございます!

日本語訳、ありがとうございます!!
感動して涙が出そうです。
また、ザ・バンドが好きになりました!!!
  • 2019-02-24 08:03
  • 波野井露楠
  • URL
  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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