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ブラックカンパニー(前編)

面接を受けたのは、秋も深まりはじめた頃だった。
印刷会社、設計事務所、昼夜二交代の自動車工場やら建築現場の人足、いろんなアルバイトを経験してわかったことは、商売として扱うものは住宅や車といった大きいものより雑貨や食べ物などの小さいもののほうが向いてそうだということと、都心にスーツを着て通うのは向いてなさそうだということ。
そんなとき、新聞の折り込み広告で生協の配達員の求人を見つけた。
あぁ、いいかも。母がずっと前から生協の組合員だったし、高校時代の夏休みに近くの配送センターでアルバイトしたこともあった。配送センターならスーツで通勤しなくていいし、オフィスに缶詰めにもならない。配送する相手は主婦だから、脂ぎったおっさんにペコペコすることもないだろうし、何より生協は商品が確かだからパン屋のときみたいに自分の商売に自信が持てなくなることはないだろう、と思ったのだ。
履歴書を書いて面接会場へ向かった。
スーツを着て、ヒゲも剃った。
面接会場には、すでに30人くらい人があふれている。けっこう人気なんだな、こりゃ倍率高そうだな。中には、就職活動でそれはありえへんやろーと疑うような金髪ピアスの兄ちゃんもいたりして、あれよりはましやろ、とも思ったけれど。
緊張しながら順番を待ち、やがて僕の名前が呼ばれる。
「えー、前職の退職が91年、それからは何をされておられたんですか?」
のっけから面接は尋問調だ。
「社会勉強です。」
「は?」
「海外に旅行に行ったり、いろんなアルバイトを転々としていました。」
「はぁ。要するに無職ということかね。」
「そういうことになりますかね。」
「何か資格の勉強をされていたとか?」
「特には。」
「あぁ、そうですか。」
面接官の顔は、今どきこんな奴ばっかりなんだよな、面接に来るの、って書いてあるかのよう。
「生協のお仕事を半公務員みたいに思われる方も多いんですが、そんな甘くはありません。きびしいですよ。」
「そのつもりはあります。」
「あなたのように職を転々とされている方は、すぐに辞めるからねぇ。」
尋問からお説教に変更だ。
なんだ、コイツ、とカチンと来たけど、顔に出しちゃいけない。
「いえ、辞めませんよ。」
「そうかなぁ。」
よっぽど、あんたにわかんのかよって怒鳴りつけたい気持ちになったけど、堪えるしかなかった。
あ、きっと受からないな、ここは。
甘くみてたのかなぁ。履歴書の三年の空白って思ったより重いんだなぁ。
ここは落ちたって構わないけど、この先だいじょうぶかなぁ。しまったなぁ。できればわけのわからないとこよりも、生協みたいな安心できるところで働きたかったよなぁ。
三年間の無職暮らしのことは後悔してはいない。そのときにしかできない経験をたくさんしたのだ。これは僕にとってはとても有意義な時間だったのだ。でも、世間にはそういうの、伝わらない。

言いようのない不安感に怯みそうになりながら、僕は引き続き新聞の求人広告を眺めていた。ピンとくる求人はあまりない。
一週間ほどして電話があった。
「この度、採用となりました。」
「あ、ありがとうございます。」
「いつから勤務できますか?」
「えぇ、なんでしたら今日からでも。」
「それでは、来週の水曜日に入協ガイダンスを行いますので、◯◯へ◯時にお越しください。」
まさか受かると思ってもいなかったからビックリした。ラッキーだ。ツイてるぜ。ここでならまっとうに働けるのかもしれない。
そして、ガイダンス当日。
僕は唖然とした。
ガイダンスの会場には、30人くらい人が溢れていて、どいつもこいつもあの日、面接会場で見た顔ばかりだったのだ。
なんてことはない。全員合格だ。
あの金髪ピアスの兄ちゃんまでいる。
・・・だいじょうぶかよ、ここ。。。
合格はしたものの、手放しで喜べない不安感に僕は襲われたのだった。
(つづく)


1994年当時のヒット曲から、SMAPの「がんばりましょう」を。この曲を聴くと、どうも当時を思い出してむづ痒い感じがしてしまうなぁ。。。



がんばりましょう / SMAP



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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