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ことばの生まれる景色

何の予備知識もなく店頭で見かけた単行本をその場で買ってしまうのは、とても久しぶりだったような気がする。
何気なく本屋さんのコーナーで見つけて(いつも立ち寄る本屋さんでは、音楽関係の棚と美術関係の棚が隣どうしなのだ)、あぁ、いい感じ、これは借りたり立ち読みしたりではなく、手元に持ってじっくり読みたいなぁ、って思ったのだ。

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ことばの生まれる景色 / 辻山良雄、nakaban

著者の辻山良雄さんは、杉並区荻窪で『Title』という本屋兼カフェ兼ギャラリーを経営しておられる方だそう。
その『Title』にて、画家のnakabanさんが読んだ本の印象を絵にした絵画展を行われ、そのnakabanさんの絵に辻山さんが短文をつけたのがこの本。

40にも及ぶ、nakabanさんの絵と辻山さんのエッセイを、毎日1~2編ずつ、じっくり味わうように読んだ。
選ばれた40編は、星野道夫さんや須賀敦子さん、武田百合子さんといった大好きな作家さんから、サリンジャーやガルシア・マルケス、アーヴィングといった海外の作家、村上春樹「1973年のピンボール」や高橋源一郎「さようなら、ギャングたち」など僕が思春期の頃に画期的だった作品、谷崎潤一郎、宮沢賢治、太宰治、チェーホフ、カフカ、フォークナーといった近代の古典、柳田国男に深沢七郎、山之口貘、ミヒャエル・エンデにマーガレット・ワイズ・ブラウン、果てはゲーテに鴨長明「方丈記」まで、時代も国籍もジャンルも実にバラエティー豊か。
お二人の手にかかるとそれらの作家/作品が何か見えない糸ですぅーっと繋がれているように感じられるから不思議だ。

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本について語られてはいるけれど、書評やブックガイドの類いではない。読書感想文の類いとも少し違って、描き出されるのは辻山さん自身の心もようのようなもの。
本を読んで揺さぶられたり浮かび上がったりしてきたロールシャッハの模様みたいなものを、個人的な経験や感慨を踏まえて「あんな感じ?こんなふうかな?」と呟いているような印象。
少し控えめでとてもさっぱりとして、ある種の清潔感や奥ゆかしさが感じられる文章だけど、この心持ちに至るまでにはきっといろいろなモヤモヤやウズウズがあったのだろうとも思い起こさせる。

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絵については、僕はあまり多くを語れるほどの言葉を持ってはいないのだけど、nakabanさんの絵にはとても惹き付けられるものがある。
それがなぜだかは、うまく言葉にすることができない。

ただ、見えないものを見えるような形にすることが芸術の根本的な役割だとすれば、nakabanさんの絵も辻山さんの文章も、確かにその役割を果たしている。

心の奥底に沈殿していたり、隙間に挟まりこんだり、ジグソーパズルのピースのようにバラバラに散らばってしまっているもの、或いは泥を被ったり、透明すぎたり、小さすぎて目に止まらなかったり、巨大すぎて全体像が把握できなかったりすること。
そんな、意識して見ようとしなければ見えないものが、nakabanさんの絵と辻山さんの文章からは見える気がする。

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あとがきでnakabanさんが書いていらっしゃる文章がまたとてもいい。


本は遠いそのどこかからまるで鳥のように羽ばたいて、
僕たちの窓辺にやって来る。
そしてその故郷の言葉を報せてくれる。
ページをひらいた本のフォルムはほんとうに鳥に似ている。
僕はただ、本になった鳥たちの肖像を描くことに夢中になった。


そうか、本は鳥だったんだな。
窓辺に飛んできた鳥がさえずる物語。
辻山さんもnakabanさんもそうやって本の世界から、いろんなことをたくさん感じとってこられたのでしょうね。

そんなお二人の魂が呼び会ったような素晴らしいコラボ。
まだまだじっくりと味わっていきたい感じ。
たぶん、こちらの心の在りようによって、見えるもの、心に残るものが違うような気がするから。



余談だけど、『Title』という本屋のレビューをネットで見ていたら、評価★☆☆☆☆で「店主が無愛想」というものがあった。
こんな文章を紡げる人が愛想ええわけないやろ、ってひとり突っ込んでしまった。
むしろ愛想だとかとは無縁であっていてほしいものだな、と。





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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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