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記憶のあめ玉 ー洋子さんの本棚ー

お正月。
時節柄、家族と過ごす時間が多かった。
年末に入院した母親の世話とお見舞いもあって、普段はまるで会わない兄弟三人が顔を揃えたりもした。
親兄弟というのはどちらかというと苦手なんですよね。身近過ぎてかえってうまく話せない。感謝の言葉を伝えたりするのも苦手。
これは大人になってもなかなか変わらないなぁ。

想定外の入院になって落ち込み、
「もう、体もあっちこっち痛いし、そんなしんどい思いして生きててもしゃーないわ。」
と言う母親。
「安楽死は日本では認められてへんし、まぁそんな慌てんでも、そのうちお迎えくるわ。」
って返す自分の口調は、まるで死んだ父親にそっくりで、ちょっと嫌になった。
なんだかなぁ、って。

そんなとき、帰り道に読んでいた本の言葉に少し救われたのです。

記憶のあめ玉、っていう話があって。
子供の可愛らしさの記憶の保存がいくつかあって、辛いことがあったときにはそれを繰り返し思い出して、心の支えのように味わうんだっていう話。
そういうのってありますね。
うちの娘ももう17で、かなりいっちょまえなことも憎たらしいことも言うようになってきたけれど、それで腹が立つかというとそうでもない。あの小さい赤ん坊がね、って思うとむしろほっとする。
本人はまるで忘れているかそもそも記憶にないような小さなエピソード。
うちの親もきっと兄弟三人それぞれに、記憶のあめ玉にするようなエピソードを持っているはず。
きっとそうかもね。
いらんこと言っちゃったな、と思ったけど、意外と母親は「あんたと言うこととか言い方とか、ほんまそっくりやわ。」と死んだ父親にそっと報告しているかもしれない。





読んでいたのはこの本。

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洋子さんの本棚 / 小川洋子、平松洋子

小川洋子さんと平松洋子さん、おふたりともなんとなく共感するところが多くて、この数年読む機会が多い方々なのですが、これはそんなおふたりの洋子さんたちが語り合う対談集です。
幼少時代から思春期、独り立ち、現在・・・それぞれの時期に心に留めてきた本をおふたりが紹介しあう、という趣旨だけど、単なる書評ではないのがこの本のミソ。
本をテーマにしながらも、話題はあっちへこっちへとどんどん脱線していく。
その脱線の果てにふわっと浮かびあがってくる人生へのサジェスチョンがとても深いのです。


「目の前で起きたことに抗うのではなく、どう受け止めるか。それを考え続けるのが人生だとすれば、様々な出来事をひとつずつ受け入れる過程を通じて、人は大人になってゆく。」

「書くにしても、読むにしても、考えるにしても、人は言葉と関わっていくことで自分という人間を組み立てていく。それを人生をかけて繰り返していくのでしょう。」

「余分なものの方がいい思い出になっています。大人になってあわただしく日常を送っていたら別段思い出す必要もない。そういう記憶の欠片が何かの拍子にパッとよみがえってきて、しかもその欠片が自分を形作るかけがえのない細部であることに気づかされる。」

「自分を言葉で語らなければわかってもらえないのかという苛立ちは、私の中にもありました。自ずと生じてしまった目の前のズレみたいなものを、自分でどうやって埋めていいのかもわからない。十代の後半はその苦しさがずっとあった気がします。」

「最初にへその緒を断って生まれてきて、次に自立するために自分で振るう裁ちバサミがあって、そうして親が死ぬことが三度目の裁ちバサミになる。」

「私がいつも思うようにしているのは、過去は必然だったのだ、と。自分が今ここにこうあるのは、やっぱりあの過去があったから。思い出したくない過去なんていくらでもありますけど、その時、いや、あれは必然だったと肯定すると、ちょっと救われる気がします。」


・・・ちょっとこの言葉は心に留めておきたいな、と書き写してみただけで、もう記事がいっっぱいになってしまう。
そんな腑に落ちる言葉がたくさん。

対談集って、下手をすればお互いの自慢のひけらかし合いや、逆に当事者以外にはピンとこない納得のしあいになることもありがちだけど、このおふたりの対話は、相手の言葉を受けて自分の無意識が言葉に変換されながらつながっていく感じがとても心地よかった。
そして、語るほどに、そのバックボーンにあるおふたりが読んできた本が浮かびあがってくるという意味で、とても優れた書評でもありました。






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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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