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胃カメラ顛末記

胃ガンの疑いがあります
速やかに再検診を
行ってください


10月に健康診断に行った。
2週間後、送付されてきた数値がずらずらと書かれた書類の所見の欄に大きな文字でそう書かれていた。

普通はびっくりするよね。
でも、僕は驚かなかった。
以前も二度ほどそういうことがあったからだ。
最初はびっくりして、慌てて再検診に行って、胃カメラを飲んだのだ。
結果はまったくの健康だった。

実は30才になったばかりの頃、胃潰瘍を患って入院したことがある。
胃潰瘍というのは、要は自分の胃液で自分の胃を溶かしてしまう症状で、胃の壁に傷ができる。
そのときの傷口がいわゆる瘡蓋のようにボコボコしていて、それがアヤシイ影としてレントゲンの検査で映り込むことがあるのだ。
前回も前々回も、結果としてはそういうことだった。

あ、またかよ。
めんどくさー。
わざわざ病院を予約して、前日から絶飲食して、胃カメラを飲んで、結局は「異常ありません」ってことになるんなら、行くだけ無駄なんちゃうの?
いちいち行かんでええやろ。
そう思って、無視を決め込むことにした。
体調もすこぶるいいし、何の不調もないし。

ところがある晩、眠ろうと思ってふとんに入ったあと、ふと、前回受診したときの医者の言葉がふと浮かんできたのです。

「まぁ一般に、ということですけれども、胃潰瘍の経歴がある方は、そうでない方に比べて胃癌の罹患率は高いと言われています。
潰瘍の痕跡が癌化しやすかったり、胃の老化が進行しやすかったりするのでしょうね。」

「レントゲンというものは影を見る程度ですから、レントゲンで異常が発見されるくらいの頃はもうかなり進行していて手の施しようがありません。

若いうちは進行が早いですから、一年に一度くらいは胃カメラ検診されることをおすすめします。」

そのときは、そりゃ、自分とこにええように言うわなー。。。くらいの感じで聞き流していたのだが。
うーん。
前の検診から2年。
体調に問題ないとはいえ。
癌化するリスクは高い。
前の検診から2年。
体調に問題ないとはいえ。
癌化するリスクは高い。
レントゲンでは見つからない。
発見されたときはもう手遅れ。
レントゲン、発見、手遅れ、、、

ふと、3年ほど前に亡くなったひとつ上の先輩のことが思い出された。
背中が痛いと言って医者へ言ったらすでにステージ4に進行していて。
入院したとは聞いたものの、お見舞いにもいけないままあっという間に亡くなってしまった。
お葬式で拝んだお顔は、元気だった頃とまるで別人のような、何かを奪われたような顔つきだった。

あー。
そういうこともあり得るのではないのか。
うーん。
それはそれでいいか?

いや、よくない。
よくないよ。
まだ早い。
もうちょっと生きていたい。

翌朝、緊急の脳内会議が召集された。
「やっぱり、検診受けとくべきかねぇ。」
「いや、結局『問題ないです』なんちゃうの?いちいち休みとって、絶飲食してせなあかん?」
「しかし、先生もおっしゃっていたように、万が一ということもある。」
「そりゃまぁそうだけど、リスクや可能性なんて言い出したらいくらでもあるだろ。二度あることは三度ある、だよ。」
「三度めの正直とも言うよね。」
「狼少年の物語みたいな例もあるし。」
「えー、総合的に勘案しまして、検診は確かにめんどうですが、万が一のリスクを考えたとき、やはり受診しないということを選択する根拠には乏しいのではないかと思われます。議長、ご判断を。」
「けつろーん。受診。」

・・・というわけで、そそくさと胃カメラ受診を病院に申し込んだ。
年の瀬ギリギリで予約がたてこんでいるそうだ。
電話の受付の女性は、
「それでは、前日は夜9時までに夕食を済ませ、その後は飲食はしないでください。当日は保険証をお持ちの上、10分前までに受付を行ってください。」
と事務的に言った。

そして受診当日。
なんとなく緊張する。
病院に入って受付を済ませた途端、また脳内で会議が始まる。
「ちょっと喉がいがらっぽいし、この状況でほんまに胃カメラ飲む~?」
「いや、せっかく休みもとって、ゆうべも早めに夕食食べたんだし、やっとくべきでしょ。」
「・・・けっこう痛いよ。。。」
「いや、だいじょうぶだ。あんなもんは、痛いと思うから、体が強ばって余計痛いと思うのよ。だいじょうぶ、痛くない。痛くないったら痛くないって。」
「・・・けっこうびびってるよね?」
「うるさい。それより心配なのは、ほんとうに何か見つかったときだ。」
「ま、そうなったらそうなったで、仕方なくね?どーせ今まで不摂生不養生だったんだからしゃーないって。」
「・・・まだ死にたくないんやよなー。最近やっと人生落ち着いてきたとこだし。」

そうこうしている間に、名前を呼ばれる。
おずおずと診察室に入る。
あのきちんと片付いて薬くさい感じは、いつまでたってもなじまない。
医者に検査に至った状況を説明し、前回もらった胃の写真を見せる。
「ピロリ菌は除菌されているので再発の可能性は低いでしょうが、まぁちゃんと診ておいたほうがいいですね。」

そしてベッドへ案内され、喉の痛み止めとかいう怪しいゼリー状のものを喉でゴロゴロさせられて、それから腕に鎮静剤を注射される。
「はい、じゃあ、口を大きく開いて。力を抜いてくださいねー。」
あんぐりと開けた口に、プラスチックの轡をかまされ、黒いホースのようなものがねじ込まれていく。
うぐぐ、ぐぐぐ、
「はい、力抜いてねー。」
うぐぐぐぐ。

モニターに泡状のものや暗いトンネル状のものが映され、やがてピンクの壁のようなものが見えてくる。
カメラがピンクの壁の中をいろいろと動き回っている。
そのとき、医者が一瞬、顔をしかめた。
・・・ような気がした。

そこから先、僕は記憶を失った。
鎮静剤が効いてきたのだ。

気がつくと、僕はベッドの上に横たわっていた。
ホースはもう抜かれている。
「あ、お目覚めですね。先生からお話がありますので、お掛けになってお待ち下さい。」

そこから名前を呼ばれるまで、ものすごく気が遠くなるような時間が流れた、、、気がした。
ドキドキ、ドキドキ。
ほんとうに癌だったらどうしよう。
早期発見なら、すぐに手術とかになるんだろうか。
癌特約は確かつけてたよな。いざとなったら資金面ではなんとかなるんだろう。放射線治療とかどうなんだろうな。副作用が激しくて、ものすごくしんどいって聞くしな。むしろ自然治癒力に任せたほうがいいとか。でも、その判断が間違っていたらどうしたらいいんだろ?
それにもし手遅れだったら。
娘はもう17だ。働くこともできるだろう。
妻のほうがむしろ再就職とかできない年だしな。生命保険、いくら入ってたっけ。前の更新のときに保険屋の態度が余りにも横柄だったからだいぶ減らしたんだったっけ。やっぱりもうちょっとあったほうがよかったんやろか。保険がそれなりにあるのなら、娘を大学くらいはやれるだろうか。

お迎えが来る残り時間まで、何ができるんだろ。
特にやりたいこともないけどな。
今さら高級車に乗ってご馳走食べて美女をはべらかせて、なんてわかりやすい欲望もないし。
そんなにほしいものもないし、けっこうここまでの人生、そこそこ満足してる。
いや、そんなことはない。
ぞんなことはないよ。
ほら、こないだサマルカンドに行きたいとか書いてたやん。もう一回ストーンズのライヴも観たいとかさ。
でも、そういうのよりは、お世話になった人や、いろんな友達に会いに行きたいな。
それから、何か一枚絵を描きたい。
そうだ、その絵を飾って、ライブをやろう。会場を借りきって、生前葬みたいにして、学生時代の友達や前の会社や今の勤め先の同僚、ブログつながりの友達、いろんな友達に歌ったり演奏したりしてもらおう。2、3曲くらい僕もギターを弾きたいな。練習しなくちゃいけないな。葬儀用のBGMも決めなきゃな。
余命は何ヵ月くらいだろう。半年くらいあるといいな。次の元号が何になるのかすごく気になるし。。。


名前を呼ばれるまで、実際はほんの5、6分だった。
診察室に入ると、先ほど撮影した写真を手にしながら難しい顔をしている。

やがて、医者がおもむろにこう言ったんだ。

「特に異常はありませんね。」



・・・そんなわけで。
まだもうちょっと生きさせてもらえるようだ。


家に帰った僕は、何しろ腹ペコだった。
夕べから絶飲食だったからね。
とりあえず昼間からビールを開けて乾杯した。
調子に乗って、ピザやら唐揚げやらハムやらキムチやらプリンやらカントリィマームやら、そこらへんにあった食べ物を手当たり次第に食いまくった。
あぁ、生きてるっていいよな。
食べ過ぎて胸焼けがしてきた。
これも生きているからこその痛みだと納得して、トイレにこもったら、冷えてしまって悪寒がしてきた。
これも、生きているからこそ、、、だ。



Life is a Carnival / The Band





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コメント

[C3257]

BACH BACHさん、ありがとーございます。
今後も年1くらいでちゃんと検診受けると何かあっても早めに対応出来るんでしょうけど、、、でもたぶん忘れそう。。。
  • 2018-12-27 18:25
  • goldenblue
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  • 編集

[C3256] なんにせよ

よかったですね~!

[C3254]

波野井さん、毎度ですー。
ほんと何にもなくってよかった、っていうか、何もなかったことをいかに膨らまして、心の動きを書けるか、というのがこの記事のテーマだったので、書いた本人はおもしろかったのですが不必要にいろんなとこでご心配を掛けてしまったようで。

まぁでも、そういうことも普通にある年頃に差し掛かってきてますから、、、、不摂生不養生には記をつけていきたいと思いまーす。
  • 2018-12-25 20:36
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3252]

メリークリスマス!!
よかったですね!!!

自分の身の回りで、不幸やら入院やらが
相次いでいて…。
健康にはお互い気をつけたいですね(^^)!!
  • 2018-12-25 17:06
  • 波野井露楠
  • URL
  • 編集

[C3251]

名盤さん、メリークリスマス♪
まぁとりあえずはお互い無事でなによりです。
キースが引退宣言してるとか?
次の来日はなんとか大阪にも来てほしいもんですね。
  • 2018-12-24 18:46
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3250]

異常なしで何よりです。
僕もまだ胃の調子は悪いですが、大分よくなってきました。
ストーンズもまた来日しそうだし、まだまだ元気にいきましょう!

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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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