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名代豆餅  ー日本のすごい味ー

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賀茂川と高野川が合流する場所、通称出町デルタ。
この時期は底冷えする京都だけど、その日は幸い北風もおとなしくてそんなに寒さを感じなかった。
橋の向こうに見える鞍馬山はうっすらと雪の帽子を被っていたけれど、中洲にある飛び石では観光客や子供たちが遊んでいた。
水際にはゴイサギが獲物を狙ってじっと立っている。その脇にはカラスが二羽、水辺には鴨、空にはトンビとユリカモメ。

学生時代と最初の会社を辞めた無職の頃、この辺りに住んでいた。天気のいい日にはよく出町デルタ辺りで本を読みながら昼寝をしていた。

橋を渡って河原町今出川の交差点を少し北へ歩くと「出町ふたば」という和菓子屋さんがあって、ここにはいつも行列ができている。おいしいという評判は知っていたけれど、その当時いただいたことはなかった。行列に並んでまで買うなんてアホちゃうか、とその頃はそう思っていたんだと思う。

「えーっ、京阪百貨店に出町ふたば来てたんや~、買いに行ったらよかった~。10時からやったらもう売り切れてるなぁ。。。」
「そこってそんな有名なん?」
「知らん?めっちゃおいしいねん。もちっと柔らかくて。めったに来ぇへんのよ。」
「昔、そこの近所に住んでたことあんねんけどな。よう行列見かけたけど、食べたことないわ。」
「うっそー、もったいない!私やったら毎週買いにいくわ。」

今の部署で働くようになったある日の昼休み、同僚の女の子たちが百貨店の広告を見ていて、そんな話になったんだったかな。
次の週、日曜日に京都市内まで出掛ける用事があったので、出町ふたばに寄って、30分ほど並んで名物の名代豆餅を買って職場に持っていった。
すごく喜ばれたのは言うまでもない。

そんなことはすっかり忘れていたんだけど、先日図書館で借りた平松洋子さんの本を読んでいて、あっー、と思ったのです。

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日本のすごい味 / 平松洋子

冒頭、伊吹山でひっそりと食べられている熊鍋に始まって、大阪・大寅蒲鉾の蒲鉾、京都・竹中罐詰のオイルサーディン、高知県馬路村の柚子、和歌山県龍神村の梅干し、滋賀県・喜多品老舗の鮒ずし、岐阜県の栗きんとん、長崎県の五島うどん、沖縄県のイラブー汁など、その場所その土地へ行かなければなかなか味わうことができない食べ物を取材したこの本。
その中に、この出町ふたばのことも書かれていたのです。

創業は明治32年、江戸時代から続く老舗がゴロゴロしている京都では取り立てて古い店ではない。初代の主人は加賀から出てきた人で、元々は餅屋さんだったらしいのだけど、餅米で作った和菓子がいつしか評判を呼ぶようになったのだそうだ。

ここの豆餅のおいしさは、なんといっても生地のやわらかさ。塩味の効いた生地にごろっと練り込まれた赤豆、そしてすっきりしたあんこ。

「餅は絶対なぶらない。触りすぎない。手は抜かず、無駄なことはしない。おじいさんの代から徹底しています。」

「手間ひまのかかるあんづくり、これも自家製を守る。小豆を圧力釜で本炊きしたあと、蒸気と圧力をゆっくり逃がしながら柔らかくし、分離機にかけて中身と皮を分け、沈殿させて上澄みを捨てて水分を除いたあと、氷砂糖を加えてじっくり煮る。」

「このあんがさっぱりしておいしいのは、余計なことをせず、正直にちゃんとこしらえているからです。」

「そういうところで頭よう効率ようやると、大事にしてきたもんがぜんぶ台無しになると思うんです。」

あるべき形へのこだわりがあって、それが見事なおいしさになっている。
効率ではなく、素材のおいしさをちゃんと引き出すための手間ひまは惜しまずに。でも触りすぎない。素材の持つ力を信じる。
それって、つまりは愛なんだと思う、というと飛躍しすぎだろうか。
代々この豆餅を作り続けてきた先達への愛、ずっとこの味を支持し続けてきたお客さんへの愛。

必要な手間は惜しまない。
でも、素材そのものを信じて、触りすぎない。
そういうことって、何でも同じなのかもね。
人との関わりでも、きっとそうなんだと思う。

触りすぎずに、信じましょ。
ちゃんと誠意を込めたことは伝わるし、そうじゃないものはすぐに見限られるんだろうしね。







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コメント

[C3248]

ezeeさん、毎度ですー。
豆餅は喜ばれなかったことは皆無の最強お持たせです。
形だけ雰囲気だけ似せても似て非なるもの。
やっぱり愛が大事かと。
  • 2018-12-19 08:23
  • goldenblue
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  • 編集

[C3247]

まいどです
ふたばの豆餅、菓子の最高傑作ですな〜
よく似たものを東京時代、何個も買いましたが匹敵するものは
皆無でした。すべて愛が無かったんですな。
久々の買いに行きたくなりました!
  • 2018-12-19 01:47
  • ezee
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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