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音楽歳時記シーズン3「大雪」

サイモン&ガーファンクルにはなんとなく冬の音楽というイメージがある。
それは、このアルバムのジャケットの印象が強いせいかもしれない。
マフラーを巻いて分厚いコートを着こんだポールの表情は唇を少し歪め眼差しは遠くどこかシニカルで、対称的にアーティーは真っ直ぐに正面を見据える。ただし口元は見えない。

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Bridge Over Troubled Water / Simon and Garfunkel

静かで叙情的とも言えるテイストの曲が多い印象のせいか、サイモン&ガーファンクルのパブリックイメージはどこかじめっとして軟弱っぽく、ひ弱な優等生的だ。
彼らが活躍した1960年代後半、ロックが一番ワイルドでエネルギッシュでものすごいスピードで進化をし続けていた時期、主流は肉食系だった。ガッツガッツとあらゆるものを吸収しては全開でエネルギーを放出するのがロックだった時代の中では、サイモン&ガーファンクルの音楽は解放感もなく内向的で明らかに草食系。
そりゃひ弱くも映るんだと思う。
けど、サイモン&ガーファンクルの音楽は、叙情的なだけが魅力ではないと僕は思う。
例えばリズムのおもしろさ。
このアルバムなら“Cecilia”でアフリカンなポリリズムを取り入れているし、“Keep The Customer Satisfied”だって弾むようなリズムが心地よい。
有名な“El Condle Pasa”は南米のフォルクローレ、“So Long,Frank Lloyd Write”はボサノヴァなど、世界中の音楽を貪欲に取り込んでいる。そういう知的好奇心を原点とした音楽的冒険レベルはかなり高く、それはただの青白いひ弱な優等生ではできない、ある種の強さがあってこそのことだ。
“Baby Driver”のようにドライヴィングなリズムにブルージーなギターとシャウトがかっこいいソウルフルな曲だってあるし、“Bridge Over Troubled Water”ではゴスペルを取り入れたり黒っぽい要素もある。この曲を聴くといつもピリッと背筋が伸びる気がするのですよね。まるで国歌斉唱でも聴いているような荘厳な気分になる。

肉食系の情熱的でエネルギッシュな表現が主流だった時代に、自分たちの資質と志向に忠実に、淡々と草食系の表現を研いてきたからこそ、サイモン&ガーファンクル の歌は今もしっかりと心の奥底まで響いてくる深みと強度を持っているんじゃないかと思ったりするのです。
鍛練を忘れて怠惰になった途端に脂肪に変わっていくような筋肉隆々のロックではなく、繊細だからこそ丹念にひとつひとつの強度を練り上げながら作り上げた強さ、みたいな。

そのことに共感するのは、僕もまた肉食系の人たちに追いやられっぱなしの草食系な少年時代を過ごしたせいだと思う。
“The Boxer”の主人公の少年みたいに悔しい思いを何度もしながら、“The Only Living Boy In New York”の少年みたいに夢を見つけた友を取り残されたように見送りながら、草食系だからこその生き延び方を学んできたのだ。
暴力的であることを含む腕力の強さだけが強さじゃない、ルックスの良さだけがかっこよさじゃない、ただ甘いだけが優しさじゃない、そう思いながら自分なりの強さやかっこよさや優しさを思い描いたとき、サイモン&ガーファンクルの音楽はひとつの指針になったような気がする。



12月7日が大雪。
夜になって風がどんどん冷たくなってきた。
明日はかなり冷え込むらしい。
冬なんだもの、当たり前だ。
アルバムジャケットのポール・サイモンのようにコートとマフラーを巻きつけて冬に立ち向かっていくのだ。
ひとつひとつを丹念に練り込みながら、繊細であるが故の強さをしっかりと身につけたいと今も願いながら。




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コメント

[C3341]

BachBachさん、こんにちは。
お返事遅くなりました。
元々は気の合う友人同士が気楽に始めたデュオ、それがいつの間にか大きなビジネスになって、このころにはきっといろんな軋轢や葛藤もあったんだろうと思います。
元々の本質である壊れそうなひ弱さを根本に持ちつつ、長い道のりで身につけてきた音楽的ボキャブラリーの広さと深さがこのアルバムの魅力になっているのかと思います。
  • 2019-12-09 08:15
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3340] サイモン&ガーファンクルは

デュオのころの壊れそうなひ弱さが、きっと本心なんじゃないかと思って聴いてました。こういう青春もあるんだな、みたいな。ソロになってからもエルトン・ジョン的な意味でポップで良い音楽でしたが、僕にとってのS&Gは切実なフォークロアのようなこのアルバムまでが特に好きです。いいですよねえ。。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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