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音楽歳時記シーズン3「立冬」

マリア・マッキー、という名前を聞いてピンとくる人はいまやどれぐらいいるのだろう。
1985年にデビューしたローン・ジャスティスというバンドの看板ヴォーカリストが彼女だった。

ロサンゼルス出身で少し田舎っぽいカントリー風味が持ち味だったローン・ジャスティス。
プロデューサーにジミー・アイオヴィンを据えて新興ゲフィンから鳴り物入りのデビューを果たし、Eストリートバンドのリトル・スティーヴンやトム・ペティも曲提供したりハートブレイカーズのメンバーがレコーディングにも参加したり、とずいぶんと評判が高かったおかげで僕も興味を持ったし、実際聴いてみてすぐに気に入った。
当時大好きだったスプリングスティーンやトム・ペティ系のアメリカンロックの匂いと、ちょっとダサいくらいのカントリーっぽさがよかったんだよね。
そしてヴォーカルのマリア・マッキーの存在感。
すましていればアイドル・スターになれたのかもしれない美しい顔立ちなんだけど、そんなことお構い無しに唇を歪めて髪振り乱してパッション100%で歌う姿がかっこよかった。
つんととりすまさず、作り笑いを取り繕わず。

けれど、残念ながら、ファーストアルバムは期待ほどには売れなかったらしい。
もっと売れる奴を作れ、ってことだったんだろうけど、翌年に発売されたアルバムではメンバーがすげ替えられてしまっていた。ファーストにあった元気いっぱいなやんちゃさは影を潜め、なんだかすごく薄っぺらくなってしまっていた。
レコード会社はそもそもマリアのスター性が売りになるとしか値踏みしていなかったのだろう。それこそ80年代のリンダ・ロンシュタット的な。
しかし、またもやレコード会社の思惑ははずれ、セカンドも大して売れず、結局バンドは空中分解してしまったのだ。

その後、マリアはソロに転向。
89年にセルフタイトルのソロアルバムを一枚出したものの、その後すっかり音沙汰をきかなくなってしまったまま、僕もだんだんと最新の音楽シーンをチェックすることから遠ざかってしまった。

20180731205540001.jpg
You Gatta Sin To Saved / Maria Mckee

このセカンドソロのリリースは1993年。
僕は発売当初は知らなくって、ずいぶん経ってから輸入盤屋で見かけたんだったかな。

実はこのアルバムには、デビュー時のローン・ジャスティスのメンバーが顔を揃えている。
やんちゃ娘度満開だったマリアの歌はずいぶんと野太く大人っぽさが漂うようになった。
音楽性もどちらかというとカントリーよりも南部のソウルに接近したような感じ。ヴァン・モリソンのカヴァーがあったり。
だけど、大人になったからといって大人しくなってしまったわけではない。
軽々しくナイフを振り回さなくなった代わりに、腹にドスを隠し持つような、そんな胆の座った凄みみたいなものがこのアルバムにはある気がするんですよね。
つまりは、マリア・マッキーの敗者復活戦。

いろいろあったし、いいように振り回されてもきたけど、アタシはアタシ。それでいいんだ。
アタシにできることをやるだけ、やりたくないことはもう二度とやらない。
・・・そんな決意みたいなもの、それも悲壮感ではなくあっけらかんとした明るさを湛えて。

そんなこのアルバムを聴いて、マリア・マッキーのことがもっと大好きになったのです。



誰の人生だって、順風満帆ばかりじゃない。
ひとつこだわりを捨てれば楽に流れていけるようなことだって、捨てられないこだわりがある。
そんなときには、輝かしいスポットライトから自ら降りることも選択肢のひとつだと思う。
自分らしさを歪めてまでここに留まる必要はない、と。
そうやって雌伏しながら牙を磨き爪を研いだ人間の方が、長い人生では絶対に強いはずだ。



11月8日は立冬。
いよいよ冬の入り口。

夏の楽しさしか知らない人は冬を疎ましく思うのだろう。
夏の辛さを知っている人はきっと、冬の楽しみ方を知っている。
日に日に寒さが増してくる冬の入り口で、マリアの歌声を聴きながら、そんなことを思っていました。







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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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