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♪本当の自分は自分自身の中にはいない / Rod Stewart 『Soulbook』

ソウルブック

Soulbook/Rod Stewart

発売したてのロッド・スチュワートのニュー・アルバムは、古いソウル・ミュージックのカヴァー集。
Rainy Night In GerigiaにYou've Really Gotta Hold On Me、Wonderful WorldにJust My InaginationにIf You Don't Know Me By Now・・・奇をてらったところなどひとつもないど真ん中直球の名曲だらけの選曲、その上、My Cherie Arourではスティーヴィー・ワンダーと、Tracks Of My Tearsではスモーキー・ロビンソンとという大御所オリジネイターとのデュエットも、どうだとばかりにあざとい。(そういやずっと前もThis Old Heart Of Mineをロナルド・アイズレーと演ってたっけ。。。)
“American Greatest Songs”と銘打った4枚に続いて“Rock Classics”とくりゃ、お次は“Soul Classics”に違いない、なんて誰だって予想できること。
きっと世間では「性懲りもなくまたカヴァー・アルバムかよ。」なんてあきれられるのだろう。
柳の下のどじょうばっかりすくってるロートル・シンガー。
かつてスーパースターだった時代の栄光にいまだにしがみつく老いぼれシンガー。
けど、そんな批判を承知の上で、「みなさん、次はこんなのをお求めだったんでしょ。」と期待通りにずばっとやってしまうのだから、本当にロッド・スチュワートって人は凄い人だ。
もちろん当然のことながら、あの声でこの名曲群。悪いわけはない。


ずいぶん前にも書いたことがあるのだけれど 、僕はロッド・スチュワートが大好きだ。
ロッド・スチュワートを聴いていると、いつもこんなことを思ってしまう。
「本当の自分自身なんていうものは、自分自身の中にはどこにもない。」と。

昔の栄光を看板にして懐メロを歌う歌手はたくさんいる。
そのほとんどが、どこか惨めな哀愁というか、本当はこんなことやりたくなかったけれどこれしかやらせてもらえないいんだ的な悲しさか、或いはとっくに新しい世界の構築なんて捨ててしまって「昔取った杵柄だけで生活してます」的な開き直りが鼻について、いずれにしろ見ていて気持ちのいいものではない。
なのに、ロッドにはそういう気持ち悪さを感じないのだ。
それはなぜなのか?
前者には「本当の自分は違うんだ」という卑屈さや、「本当の自分なんてどうでもいいんです」的なあきらめを感じるのだけれど、ロッドの演っていることは少し違う。
またあざとい商売ばっかりしやがって、と思いながらもその商売くささが鼻につかない。
そこにあるのは、卑屈さやあきらめではない、あえていうならば潔さ。
「あなたの求める姿が本当の私なのです。」という潔さなのだ。
ロッドはずっと昔から、そうやってそのときそのときに求められる姿を演じてきた。
いかれたロックンローラー、金髪美女をはべらかせた尻軽なスーパースター、ムーディーなスタンダードソングを歌うバラード歌手・・・。「みんながそれを俺に歌ってほしいのなら、俺にできることはそれを歌うことだろう。それでみんなが喜んでくれるのならそれが俺の存在意義なんだろう。」と。

仕事での自分、家庭での自分、ひとりきりのときの自分、友達といるときの自分。それぞれのシチュエーションで、同じ自分でも少しづつ違う。その場、そのときで求められている自分を無意識の内に演じているのだ。だから、きっと関わってきた人それぞれに、その人にとっての自分の姿は少しづつ違う。そして、そのそれぞれが本当の自分だ。
つまり、本当の自分自身は、自分の中にではなく、相手との関係の中にある。
『自分探し』なんてしなくても、関わった人の数だけある自分が全て本当の自分なのだ。
そのことを潔く受け入れて、あがかず自然体で「あなたの求める姿が本当の私なのです。」といえる。
そういう潔さを、とてもかっこいいと思う。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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