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204X年

時は204X年。
秋の臨時国会で「禁煙法」が可決された。
ついにタバコは非合法になったのだ。
国会前では愛煙家たちが「タバコを吸う権利を!」とデモを行って訴えたが、世論は冷淡だった。
今や日本の喫煙人口はわずかに2.6%、しかもそのほとんどは納税していない70代以上だったのだからやむを得ない。
喫煙者が減るにつれて国内のタバコ農家も収入減から次々と廃業し、JTも5年前からは高齢者用の医薬品や子供のいる家庭への非課税法制導入後に急遽増えはじめた乳幼児用食品を事業の中心に据えるようになったのだから、愛煙家にとってはもはや梯子をはずされたのも同然だった上に、デモのあとの公園の芝生で大量の吸殻が発見されたことが週刊文秋で大々的に報道されたことが致命傷になった。
かくして、1920年代アメリカの禁酒法よろしく、喫煙者のためのブローカーが暗躍することとなった。

「兄さん、いいものあるよ。一本2200円でどうだい?」
「お、おう、これは、、、」
差し出されたのはメビウスone。私が人生の多くの時間を共にしてきたかけがえのない相棒だ。
「こんなのもありますがね、ちょっと値は張りますが。」
そういってブローカーが開いたアタッシュ・ケースには、今や見かけることなどなくなった幻のタバコがずらり。
マイルドセブンやセブンスター、なんともいえない香りが魅力的だったピース・ライト、ラッキーストライクにキャメルといった洋モクから、ハイライト、しんせい、わかばまで。
「これなんかどうですか。メビウス改名直前のマイルドセブン、2013年1月製造のレアものですぜ。1本5000円くらいにお安くしておきますが。」
とりあえずは我が人生の相棒、メビウスoneをいただくことにする。
1本2200円。初めてタバコを吸った頃は一箱220円だったのだから、実に200倍だ。
思えばたくさんの稼ぎを煙にしてきたものだ。

連れていかれたブローカーのアジトには様々なシチュエーションのセットが用意されていた。学校のトイレ、体育館の裏といった定番ものから、居酒屋風、カラオケボックス風、オフィス風、警察の取り調べ室風、締め切り間近の漫画家風、ディレクター・チェア付きの映画監督風、今や懐かしい路上の喫煙コーナー風のものから、高級ホテルの一室で一夜を共にした女性といっしょにベッドで一服という悪趣味なものまで。
違法行為なだけに少しスリル感を味わいたくて、体育館の裏セットにすることにした。気の弱いいじめられっこの見張りオプションもサービスで付いているという。学生服のオプションもすすめられたがこれはお断りした。我が校はブレザーだったからだ。
せまい体育館の裏へ忍び込むように入って、見張り役に「先生がきたらうまいことごまかせよ!」と声をかけて、これもいまや入手困難なTOKAIの100円ライターでおずおずと火を付けて、ゆっくりと大きく吸い込む。
ライターで火を点ける瞬間。これがたまらない。電子タバコなんてのもあったけど、あれは邪道だ。タバコは炎を灯してこそだ。
大きく息を吸って、煙を吐き出すとくらくらする。
あぁ至福。
タバコってこんなにおいしかったんだよな。
はじめて吸ったときの、なんか大人になったような気持ちを思い出す。
思えば、タバコにはほんとうにお世話になった。
仕事で煮詰まったとき、上司に説教くらったとき、部下からわけのわからない苦情を申し立てられたとき。にっちもさっちもいかない判断を迫られたとき。
あの一服が僕を救ってくれた、ということがいくつもあった。
それから、集中して一仕事を終えたときのなんともいえない充実感とともに味わうタバコ。
休みの日になぁーんにもすることがなくてぼけーっとしているときに吸うタバコの開放感。
せわしなく流れる時間の中で追い立てられているとき、タバコを吸っているほんの数分間だけは、時の流れをこちら側に引き寄せているような気がしたものだった。頭をからっぽにしてゆっくりと吐き出す煙の中に、吐き出せない思いを全部込めていたんだ。

ゆっくりと時間をかけて一本のタバコを吸い終わろうとするときだった。
「おいっ!」と声がした。
「ん?教師に見つかるオプションなんて付けてないよ?」と思うや否や、うぉんうぉんと吠える声が聞こえてロボット警察犬が飛びかかってきた。続いて制服の警察官。
警察官は、警察手帳を見せびらかすように僕に見せ、
「ニコチン摂取及び煙草等吸引に関する法律第1条違反の現行犯により逮捕する。署まで同行願おう。」

・・・あぁ、ついに前科者だ。
拘束されてニコチンパッチを貼られてしまう。
それでも、それでもだ。
最後にゆっくりと一本のタバコを吸えてよかったよ。
観念して僕は腕を差し出す。
ありがとう、メビウスone、ありがとう。。。


拘置所で聞いた話では、このブローカー自体が、政府が仕込んだ罠だったのだそうだ。
タバコを吸いたい気持ちを逆手にとった摘発手法。まるでゴキブリホイホイみたいに愛煙家がぞろぞろと検挙される。しかもそれらの資金は、僕たちが長年政府に払い続けたタバコからの税金が使われているのだという。
自分で自分の墓の穴を掘っていたなんて、なんて間が抜けた話なんだろう。なんて愚かなんだろう。
まぁ、仕方がない。タバコを吸うという行為自体が、客観的にみて愚かな行為であることに違いないからだ。
でも、そういう愚かさこそが人生なんじゃないのか。愚かさをなくした人間なんておもしろくもなんともないんじゃないのか。なぁ、そうは思わないか、取り調べ官さん。
「2755008号、つべこべいわずに腕を出せ。ニコチンパッチを貼り替える時間だ。」


・・・時は204X年。







10月1日から、タバコ値上げ。
もし遠い将来にタバコが違法になっちゃうと、こんな素敵なアルバム・ジャケットも差し替えられたりしてしまうのかなぁ。。。

20180930035846234.jpg

台風を待ちながらの秋の夜に、リッキー・リー嬢を。
風を感じながら、ゆっくりと一本のタバコを吸おう。


Danny's All Star Joint / Rickie Lee Jones











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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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