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「かたい」おせんべい

仕事柄、校正や校閲に関わりがあって、ちょいちょい「日本語って難しすぎっ!」と思うことがあります。
敬語なんかも難しいけど、やらかしがちなのは同じ意味の言葉でどの漢字を充てるのが正しいのか、ってやつ。
例えば「かたい」という言葉には「硬い」「堅い」「固い」がありますが、これらはどう使いわけるのか。
さて、問題です。
「かたい」おせんべいは、「硬い」?「堅い」?「固い」?
解りました?解けるかな?当たるかな?

ほとんどニュアンスの世界ではあるのですが、これは反対語を考えると判りやすいのだそうです。
「かたい」の反対語って「やわらかい」に決まってる?それが、そうでもないらしい。
まず、「硬い」の反対語は「柔らかい・軟らかい」です。一番よく使うのはこれ。物質としての硬度が高いもの。元々硬いものもあれば、硬くなるというような使い方もされます。
「堅い」の反対語は「脆い」なんですね。
堅い意思とはいうけど、軟らかい意思とは言わないでしょ。「硬い」がひとつのモノであるのに対して、もともとは硬くないものが集まって硬度が高くなったニュアンスがあります。鉄は硬いけど木は堅いのです。堅牢な建物は、ひとつひとつは堅くなくても頑丈な作りなのです。
で、「固い」はどうだっていうと、これの反対語は「ゆるい」なんですって。固まるの反対語は、緩む・弛むとか溶ける・融ける・熔けるとかですよね。だから、氷は固いし、角砂糖も固い。豆乳を固めてつくるのだから豆腐も固いのです。豆腐のようなやわらかいものにも使えるということは、「硬い」が絶対的な硬度の表現であるのに対して「固い」は相対的な表現であると言えます。
なんとなくお分かりでしょうか。

で、「かたい」おせんべいの問題の解答は・・・
元々堅焼きにしてあるおせんべいだったとしたら「堅い」おせんべいが正解です。
ただし、元々堅くないおせんべいが、封を開けて置きっぱなしにして乾いてカチカチになってしまったとしたら、これは「硬いおせんべい」といってもいいのかもしれません(笑)。
英語だとぜんぶ「ハード」で済むんだから、ややこしいったらありゃしない(笑)。
英語だと、実現への難易度を表す「難い」まで「ハード」ですからね。ちなみにこの「難い」の反対語はもちろん「易い」です。
日本語、奥が深い。。。
もちろんこれは日本人が繊細で機微が豊かでアメリカ人ががさつ、ということではありません。例えば日本語だと「高い、安い」で表現される言葉が、英語では「ハイ、ロー」の他に「エクスペンシヴ、チープ」があったりします。
要はどこに注目するかの民族性の違い。

実は、この文章に他にも漢字を使い分ける言葉を他にもいくつかちりばめておきました。

・解る ・判る ・分かる
「解る」は、正解がある問題の答えを導きだすようなニュアンス、「判る」はAorBを判断するニュアンス、「分かる」は物事を理解すること。

・柔らかい ・軟らかい
「柔らかい」は、ふかふかとかぷよぷよ、「軟らかい」はぐにゃぐにゃ。軟体動物とか軟式ボールみたいに芯がないものには「軟らかい」、それ以外は「柔らかい」、でしょうか。

・当てる ・充てる
「当てる」は、元々の的があってそれにぶつける、命中させるというニュアンス。「充てる」は容れものがあってそれをいっぱいにするというニュアンス。充たすともいいますね。

・緩む ・弛む
「ゆるむ」は、傾斜や締まり具合など、きつくなっていたものがそうでなくなった状態のこと。概ね「緩む」でカバーできるようですが、弦とか弓とかピンと張っていたものがそうでなくなったときだけは「弛む」が使われるみたい。ギターのペグが緩んで弦が弛むのかな?

・溶ける ・融ける ・熔ける ・解ける
「溶ける」は液状のもの、もしくは固まっていたものが液状に戻る感じ、ただ金属など本来個体のものが高い温度で液状になる場合に限っては「熔ける」。「融ける」は液体に限らず、結んでいたものがほどけるような場合も指す。「解ける」は単に、解くという動詞の可能形だから、正解に導かれる、あるべき状態に戻るような感じ?魔法が解けるとか。

・安い ・易い
「安い」は、価格などがある規準より低い状態。「易い」は、ある規準を越えることに対しての可能性が高い状態、、、という感じ?価格が安いと買い易いのですね。

こういうこと考えていくのはとてもおもしろい。
モノ以外の「心の状態」に対してもこういう表現は使われますが、固い意思、頑固、決意を固めるなどというところからすると、日本人は「心」というものは液状もしくは小さな粒状のものであると捉えているのでしょうね。
一方、手堅いとか堅実とかいう言葉からは、人間の行動は、こよりのように寄せ集めたり束ねたり積み重ねたりして強度を増していくものだと捉えている感じが窺えます。
絆とか友情は「堅い」かなぁ。友情はほどけるイメージだけど団結はゆるむから「固い」か。いや、絆は深いがなぜか使われるね。愛情も深い、だ。これはまた別の問題。
充実するということは、心の中には本来充たされるべき空洞があるのだなぁ、とか、生活態度が緩んでいる、ということは、生活というのは張っているのが普通の状態と捉えられているのだなぁ、とか。

ブルーハーツのファースト・アルバムに『パンク・ロック』という名曲があって、♪あぁ、やさしいから好きなんだ~僕 、パンク・ロックが好きだぁー、ってヒロトさんが歌うのだけど、あれ「優しい」からなのか「易しい」からなのか、ほんとはどっちなんだろう?

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The Blue Hearts / The Blue Hearts




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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