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◇固有名詞統一戦線、もしくは役に立たない雑学

何気に気になりませんか?
なぜ、金正日はキム・ジョンイルなのに、周近平はシュウ・キンペイなのか。
金正日は日本語読みでキン・ショウニチと呼ばず現地語読みでキム・ジョンイル、でも周近平は現地語読みでシー・ジンピンとは呼ばない。
これは1984年に韓国の要人に関しては現地語で表記せよ、と韓国からの申し入れがあったことを受けてのもの。日本の植民地支配時代に創氏改名を押し付けられたことへの反感と自立心が背景にあったと思われます。それで、当時の全斗奐=ゼン・トカンと呼ばれていた大統領はチョン・ドファンと呼ばれるようになり、それ以降韓国人・北朝鮮人は現地語読みで報道されるようになりました。新聞にもよく見るとルビがふってあることが多いです。この協定がなければ、ぺ・ヨンジュンは裵勇浚=ハイ・ユウシュン、チャン・ドンゴンは張東健=チョウ・トウケンとでも呼ばれていたのかもしれません。なんだかピンときませんね。
一方中国とはそういう協定がないので、それぞれが漢字を自分とこの読み方をしている。安倍晋三は中国ではアーペイ・チンサンと呼ばれているそうだ。それもなんか違うよなー。

人名以上に地名はめちゃくちゃです。
中国は基本漢字を日本語読みですが、なぜか北京、上海、香港、青島あたりは中国語読み優先。誰もホッキョウとかジョウカイとは呼ばない。でもウーハン(武漢)はブカン、ハンチョウ(杭州)はコウシュウなのですね。クワンチョウ(広州)もコウシュウだからややこしくてたまらない。日本語読みか中国語読みかの線引きの基準はかなりグレーなようです。判断基準はどっちがメジャーかっていうレベルみたい。

そもそも中華人民共和国、中国語ではジョンファ、チャイナというのは日本語でいう支那と同じ秦の始皇帝の「秦」からきた言葉。英語でチャイナはOKで支那は差別語扱いというのはちょっと腑に落ちない。
韓国のコリアも「高麗」から来てるからずいぶん古い。ハン流という言葉も定着したんだからテーハミングク、ハングクでいいと思うけど、まぁあちらさんもニッポンとは呼ばずイルボンだからおあいこか。
実際のところ、自称と他称が違う国というのは思いの外多いのです。
オランダはネーデルラント、スペインはエスパーニャ、くらいはわりと知られていますが、インドはバーラト、ギリシャはエラス、エジプトはミスル、アイルランドはエール 、フィンランドはスオミ、ハンガリーはマジャール、クロアチアはフルバッカ、ポーランドはポレスカ、オーストリアはエスターライヒ・・・などなど。
古くから知られている国ほど違う呼び方がまかり通っているようで、ドイツやウクライナなんかは日本語と現地語が一致していて英語が違う珍しい例。Uklaine、そりゃそのまま読めばユークレインでしょうけど、ウクライナとはだいぶ語感が違うよね。
日本でだけしか通じない誤用の代表格がイギリス。イングランドのポルトガル語読みが語源だそうだけど、イングランドをイギリスと呼ぶならまだしもウェールズやスコットランド、北部アイルランドとの連合国をイギリスと呼ぶのは明らかな誤用。グレートブリテンかUKでいいんじゃないかと。
誤用といえばアメリカ合衆国の訳もですね。United Statesは直訳すれば諸国連合。合衆国ではまるで民衆が団結している国みたいだけど、実際のところそうではない州の集まりなんだから、せめて合州国とすべきです。
メキシコはメヒコ、アルゼンチンはアルヘンティナ、ホンジュラスはオンデュラス、これはまぁ、スペイン語読みと英語読みの違いだけど。ニッポンのジャパンもまぁここに当たるのかな。「日」という字はジツとも読むように、中国語ではジー。これがジーベンになってローマ字でJになり、ジャパン、スペイン語圏ではJをハ行で読むのでハポン、というわけ。
読み方といえばコスタリカはひと続きではなくコスタ・リカだし、プエルトリコはプエルト・リコと区切るのが正しい。Costa Rica、英語で言えばRich Coastだし、Purto RicoはRich Portなのだから当然だ。

現地語読み以外では読んでくれるなと通達を出したのがコート・ジボワール。昔はアイボリー・コーストとか象牙海岸とか呼ばれていた。
エベレストがチョモランマに、エアーズロックがウルルに、エスキモーがイヌイットに、能年玲奈がのんに(←これは違う)なったみたいに、自称を主張すればそのうち定着するはずだ。最近ではボンベイがムンバイに、カルカッタがコルカタになった例もあったし、グルジアがジョージアと呼んでくれと宣言してようやく定着してきたわけで、どこの国もそういう宣言すればいいのにね。ミャンマーみたいに、そう呼んでくれと戦争をしても、軍事政権を認めないと拒否されてビルマもしくはバーマと呼ばれ続けている国もあるけれど。
まぁ、そんなふうに世界は実はみんな自分とこ都合で自分とこの事情にあわせて相手を呼んでいる。昔訪れたギリシャでは、イスタンブールのことをコンスタンチノポリスと表記していて、「イスタンブールへ行きたいのです」が通じなくて困ったことがあった。ギリシャ人にとってはあの街は未だに東ローマ帝国の首都でトルコ人の支配を認めたくないということなんだろう。
そんなふうに、固有名詞が呼ばれ方が違うのはややこしいよね。通じないなら意味ないんじゃね、って思ってしまいます。

などなど、かなり長文で蘊蓄語ってますが、元ネタとしてはこういう本。

2018090212432571a.jpg
世界の国名地名うんちく大全 / 八幡和郎

まぁ、自分のブログで蘊蓄語るのは良しとしていただければ。
こういうことを知って、なんかためになるのか、と言われると、チコちゃんに「ぼぉーっと生きてんじゃねーよっ!」って怒られない程度のことかもしれないんだけど(笑)。
ただ、固有名詞っていうのは、唯一無二でアイデンティティーの依り処ですから、やっぱり当事者が納得する呼び方をするのが一番ですよね。「お前の名前はこうだ」と第三者に決められた名前で呼ばれたくはないのです。






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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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