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◇人生相談

基本的には、人に悩み事の相談はしない。
悩み事がないわけではない。大きなことから小さなことまで、生きてりゃ誰でも困ったことや何かを選択しないといけないことはいつだってあるわけで、でもほとんどの場合、どうすべきかっていう答えは自分の中にすでにあるんですよね。
人生の大きな岐路、例えば高校や大学の進路、就職先も退職も、ほとんど相談せずに自分で決めた。結婚だけは相手があるもんだから相談したけどね(笑)。幸いにしていい選択をしたと思っている、っていうか自分で決めたんだからなんであれ納得できているんだろうね。
人から相談を受けることもあるけど、だいたい答えは本人が気づいているにしろ気づいていないにしろ、もう本人の中で決まっている。相談者はそのことを後押ししてほしくて相談してくるわけで、そのことを否定したりすると不満気な反応が返ってきたりする。まぁ、悩み事や相談ごとなんていうのは、そういうもんだ。

「人生相談」というのも文学のジャンルのひとつになるんだろうか、わりと新聞やら雑誌やらのコーナーとしては確立されていて、いろんな人がいろんな悩みに対していろんな回答をしているけれど、あの相談者の心理はどんな感じなんだろう。回答に納得されているのだろうか、そのことで人生が変わったりしているのだろうか、それとも「私が聞きたかったのはそんなことじゃないっ!」って逆ギレしているのだろうか。

文学ジャンルとしての「人生相談」は、相談の中身そのものよりも、誰がどう答えるのか、だと思う。ある意味、大喜利みたいなもん。おもしろいのは、回答する側の人生がその回答の中から垣間見えるところだ。
そういう意味でおもしろかったのが、このマツコさんと中村うさぎさんのこの本。僕は雑読なので図書館でちょっと気になったら片っ端から借りるのですが、これはそういう本のひとつ。マツコさんにもうさぎさんにもそんなに関心はなかったけど、その時借りた中で一番おもしろかった(笑)。

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信じる者はダマされる / マツコ・デラックス 中村うさぎ

このお二人って、何気ない普通の一言が妙に深いのですね。
人生相談にありがちな、お説教的でも教訓めいたまとめでもなく、これもありがちな茶化しておしまい、話題を自分の話にすり替えておしまい、っていうのではなく、かなり真摯に真面目に受け止めて回答されている。
ただし、その回答は世間的にはかなり異質。
「話上手になりたい」という相談に「無理よ。なれない。」と切って、「なる必要がない。」「そもそも聞き上手のほうが需要があるのよ。」とか、「中学生の息子が勉強しない」という相談にも「勉強なんて必要ない。何ひとつも役に立っていない。」「勉強って、自分からしたくなる年齢があるのよ。いずれ勉強したい気持ちになったときにすればいい。」とか。
「自分の住んでいるマンションの共用スペースをルール無視して使っている人に腹が立つがどうしたらいいか」という相談にはズバリ「ほっておけば。」と。そもそも世の中のご近所トラブルは「妙に正義感が強い人」の方が正義を振りかざすことで起きている。自分が正しい、自分が正義と思っているかもしれないけど、正義ってものほど他人への抑圧になるモノはない。むしろ「正義は凶器であり狂気」だと言っちゃうあたりはすごく痛快でした。
切って捨てるだけではなくて、63才のおじさんからの「定年後も勤めてほしいと言われているが、地毛が減ってカツラがつけられなくなりそう」という相談には「カミングアウトしたからって、自分が思うほど他人は衝撃を受けないわよ。」「むしろその方が株が上がる。」「コンプレックスをむきだしにするって大事。」「隠したりする煩わしさから解放されたほうがいい。」などなど、どっちが年上なんだかわからない回答でカミングアウトを後押ししたり。そこにはコンプレックスを抱えて生きている人への愛が感じられたりもする。

基本的に既成概念を信用しないところがベースにあるお二人。既成概念を押し付けてくる人たちに、嗤われ虐げられつまはじきにされながら苦難の時期を過ごし生き抜いてこられたんだと思う。その中で、いかに自分の欲求に忠実に、一方でどうやって社会と折り合いをつけていくのかという葛藤があったからこその説得力というか。
そのスタンスは、かなりロックだと思います。




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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